7.
「うーん。考えても意味がわからん。僕の国ってなんだよ」
イチゴくんは地方出身者なようだが、今時、出身県を『国』と古風な呼び方をする若者はいない。
「益々わからん」
と言いつつ、大きめのバッグに着替えを詰める。
イチゴくんは手ぶらで来ていいと言っていたけど、手ぶらで旅行には行けない。
着替えとかおやつとか必要だし。
イチゴくんの実家に行くならお土産も用意しないと。
気がつけば、大きめのバッグはキャリーケースに替わっていた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
2日後。
約束は13時。
集合場所はイチゴくんのマンション。
ここに来るのは2度目だけど、見上げるとやっぱり首が痛くなる。
「歩夢先輩、いらっしゃいませー。会えなくて寂しかったですー」
「いや、寂しくなるほど経ってないだろ……」
バイトの時は週3は会わないし。
「つか、急すぎなんだよ。旅行の準備は普通1週間いるだろ」
「だから手ぶらで大丈夫ですって言ったじゃないですか」
「手ぶらで旅行するアホがどこにいる」
「……ふふっ。怒った先輩の顔も可愛いですね」
頬を赤らめるイチゴくんにオレはガックシ肩を落とした。
「では、今から出発するんですが、先輩に一つお願いがあります」
「お願い?」
「向こうにいる間、先輩は僕と結婚を前提にお付き合いしている恋人の設定でお願いします」
「はぁ?そんな話、この前してなかったじゃねぇか⁉︎」
「テヘ」
後出しジャンケンもいいところだ。
イケメンだからってそんなズルまで許される訳ないだろ。
「テヘ、じゃない。帰る」
「待ってください。折角ここまで来たんだから行きましょうよ。楽しいですよー」
「ここまで来たって、イチゴくん家に来ただけだろ。まだ出発はしてないっ!」
「いっっ」
「ぁ……」
振り払った際、オレの肘が運悪くイチゴくんの怪我をしている右手に当たってしまった。
ついいつもの癖でしてしまったが、イチゴくんは怪我人だった。
包帯がじわじわ赤く染まり、イケメンの眉間の皺が深くなる。
「イチゴくんっ、ごめっ」
「大丈夫です。……こんな怪我、向こうに行ったらすぐ治りますから。……だから……」
オレを安心させるために無理して笑うイチゴくんにオレは涙ぐむ。
オレは決めた。
「行くよ。イチゴくんのか、カレピとして、行ってやるよ!」
オレは宣言した。
「やったー!」
イチゴくんが両手を上げて喜んだ。
コイツ、怪我人だよな……?