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61 最終話

「歩夢先輩。今週末、お暇ですか?」

「今週末?……あー、バイトだわ」

「えぇー」

「えぇーじゃない。今バイト中だろ。シャキッとしろ」


つか、夜勤中に大袈裟にガッカリするイチゴくんに喝を入れる。

店内の奥の方で東京23川区の女子3人がオレを睨んでいるのに気付けよー。



ここの深夜バイトも落ち着いてきたからそろそろ派遣バイトも再開しようかなと考えた時、ちょうど登録先から週末出てくれないかと連絡が来た。

だから、イチゴくんのお誘いはお断りだ。


「今回はどんなお仕事なんですか?」


やっと川区の3人が帰って、店内に客がいなくなったタイミングでイチゴくんが聞いてきた。


「今回は子ども向けのイベントらしい」


正確に言えば「今回も」だけど。

一度はコンサートとかの現場にも行ってみたいなと思っているんだけど、残念なことにいまだにお声を掛けてもらえない。


「あの、僕行ってもいいですか?」

「んーまあ、入場無料らしいから誰でも入れるけど、オレは子どもの相手をするからイチゴくんの相手はできないよ」


と言いつつ、子どもに混じってキャッキャするイチゴくんを想像してしまって、吹き出しそうになる。


「先輩、僕のことは『淡雪』って呼ぶ約束しましたよね」


オレをジッと見たイチゴくんはオレに顔を寄せ喋るから、思わず仰け反る。


「そそそそそれは、プライベートの時だけって言っただろ。バイト中は今まで通り苗字の『イチゴ』くんだ」


肩を押して逸らした体を戻しイチゴくんから距離を取る。

それでもなお不服そうな顔をするイチゴくんこら目を逸らす。


「だって歩夢先輩、プライベートでもほとんど名前で呼んでくれないじゃないですか。『お前』とか『なあ』とか言って」

「うっ……」


痛いところを突かれて反論できない。

だってさ、いざ名前で呼ぼうと思ったら、なんかものすごく恥ずかしいんだもん。

イチゴくんの世界では何回か呼んだけど、あれはああ呼んだ方がいい気がしたからだ。

それにずっと『イチゴくん』呼びしてたから、今更『淡雪くん』呼びは頑張ってもすぐには慣れそうにないし。


「だ、大体な、仕事で人の名を呼ぶのは苗字が普通なんだよ。下の名で呼ぶのは苗字が被った時くらいだ」

「そうなんですね。あ、じゃあ、歩夢先輩のことも苗字で呼んだ方がいいですか?」

「ぇ……と、まあ、そうだな」


反論されるかと思ったら意外にアッサリ納得されて拍子抜けする。

「じゃあ、呼びますね」とニッコリ笑うイチゴくんに一抹の不安を覚える。


「あの……」

「可愛……」


呼び捨てかよ!

と思ったら……


「……い先輩」


……ん?


「い、イチゴくんっ⁉︎」

「どうしたんですか?可愛い僕の先輩」

「ふぎゃぁー」


満面の笑顔で呼ばれたオレは、この日のメンタルをゴッソリ削られた。


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