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6.

目的地に到着し見上げる。


「たっかっ」


見上げた高層マンションは首が痛くなるほど高い。

深呼吸を10回くらいしてから、コンビニでいっぱい詰めた袋3つ持ってスッと開いた自動ドアの内側に足を踏み入れる。

少し歩いた先にあるタッチパネルの前で深呼吸を5回して、番号を押し呼び出しボタン押す。


『はい』


割とすぐに返事が来て、また深呼吸しようとしていたオレは咽せた。


『……?』

「あ、あのっ、オレっ可愛歩夢といいます。いっ、一后くんはーー」

『せんぱーい!今開けますね!』


割り込んできたイチゴくんの声と共に奥へと続く自動ドアが開いた。

『ちょっ、王子』と聞こえた気がするが気のせいだよな。


待ち構えていたエレベーターに乗り込み、一番上のボタンを押すとすうっとドアが閉まって上昇を始めた。

最上階は2部屋しかなく、一番奥にあるドアに向かって進む。

オレの到着を待たずにそのドアは開き、中からイチゴくんが体半分出して手を振った。


「せんぱーい。いらっしゃいませ~」


2部屋しかないとはいえ大声を出すイチゴくんにオレは焦って駆け出した。


「わぁ、走ってくれるなんて僕嬉しいです」

「君が大声出すからだろ……あ……」


イチゴくんの右手は包帯を巻かれていて見るからに痛々しい。

なのに本人は全く気にする様子がない。

それどころかーー。


「あ、荷物持ちますよ。重かったでしょう」

「っーー、い、いいっ」


慌てて袋を後ろに隠す。

不思議そうな顔をするイチゴくんに困っていると、イチゴくんの後ろから人が現れた。


「おう……淡雪さん、お客様を中に案内しなくて良いのですか?」

「あっ」

「彼の荷物は私が持ちます」


中から出てきた男の人がそう言うと手を差し出してオレの荷物を持ってくれた。


「歩夢先輩。さっ、中へどうぞ」

「う、うん」


イチゴくんに手を引かれて中に入った。



❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


「はああぁぁぁぁ、無駄にデカイ家だな」


思わず声に出してしまうほど広いリビングダイニングに開けた口を閉じるのも忘れた。


フッカフカのソファーに座ると、イチゴくんが密着するように座る。


「先輩、今日はどうしたんですか?僕に会いたくなって来てくれたんですか?」

「ああ、うん。……イチゴくんに会いに来た」

「せんぱぁい」


両手を広げて抱きつこうとするイチゴくんを躱してソファーから降りると、これまたフッカフカのラグに正座した。


「歩夢先輩?」

「イチゴくん。昨日はオレのせいで怪我をさせてしまって、本当にごめんなさい」

「ええっ、あ、歩夢先輩⁉︎」


そのまま土下座すると、イチゴくんは慌ててオレの肩を掴んで起こした。


「何しているんですか?」

「何って、昨日の謝罪に決まってんだろ。手、縫ったって店長から聞いた。本当にごめん。オレの方が先輩なのに、オレ……怖くて…震えて何もできなかった……」


思い出したオレの目にまた涙が滲んだ。

一個下の相手に泣き出すなんて恥ずかしいけど、ナイフ突きつけられた時のこと思い出すとやっぱり怖くて……。

手が真っ赤になるほど血を流して痛かったはずなのに、握りしめるナイフを離さなかったイチゴくんの姿を思い出したら余計涙が出た。


「先輩……」

「でも……イチゴくんの方が絶対怖かったよね……」

「……怖かったです。ナイフを突きつけられている先輩の姿見て……先輩が刺されたら……そう考えたら怖かったです」


オレの肩を掴む手が少し震えていた。

あの時も、オレの無事を確認したイチゴくんは微かに震えていた。

自分のことじゃなく、オレを一番に心配してくれた。

そこまでしてくれるイチゴくんがオレにはわらない。


「なんで……?」

「ふっ、だって僕、先輩のことお嫁さんにしたいくらい好きだもの」


流石に今回のは突っ込むことができなかった。


「だからーー」

「?」

「コンビニ休業したことですし、僕の国に来てくれませんか?」

「…………はい?」


涙が引っ込んだ。


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