57.
「先輩、バイト終わったら少しお話しできますか?」
ギクシャクした雰囲気での勤務もあと1時間というところで、イチゴくんが声を掛けてきた。
「NO」と言えない今のオレは頷くだけでやっとだった。
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6時15分をちょっと過ぎた頃、帰り支度を終えたオレとイチゴくんは一緒にコンビニを出た。
いつも、裏の出入り口で待ち伏せしてるイチゴくんに捕まって駅まで一緒に向かうことはあったけど、タイミングを合わせて一緒に出たのは初めてかもしれない。
「で、ははは話って何だよ?」
駅まで徒歩7分。
その間だけでいいと言ったのに、歩き出して3分、イチゴくんはずっと無言で、オレが先に痺れを切らした。
その3分だけで色々考えてしまったから。
いつになく真面目な横顔。
耳タコになるくらい聞かされた「結婚を前提に付き合ってください」の台詞はバイト中一切言わなかった。
会わずにいた1ヶ月の間に、イチゴくんの気持ちが変わってしまった?
もしかして、バイト辞めちゃう?
そんな不安がグルグルした。
だから、オレから切り出すと、イチゴくんは少し躊躇いがちに口を開いた。
「あの……大したことではないのかもしれませんが……」
ゴクリと唾を飲み込む音が頭に響く。
「ああ」と言ったはずの声は掠れてオレでも聞き取れない。
「あの、歩夢先輩っ」
オレの名を呼ぶと何かをポケットから取り出す。
「ぇ……」
「連絡先教えてください」
手紙を渡すようにオレの目の前にスマホを差し出した。
「…………は?……はああぁぁぁぁ?」
気付けば駅前まで目と鼻の先まで到着していた。
「つか、そういうことはバイト中か終わってからすぐ言えよな」
駅前のコーヒーショップに入り、奥の席でアイスカフェオレを半分まで飲み干すとそう愚痴った。
「す、すみません。歩夢先輩と気まずくなって、どう切り出して良いか迷ってしまって……」
「うっ……ご、ごめん」
「あっ、いえ」
オレが全面的に悪いじゃないか。
項垂れる視界に入ったスマホを見る。
オレの持っているスマホと同型の機種っぽい。
「歩夢先輩を見送ってすぐ、先輩との連絡手段がないことに気づいて……。この1ヶ月、僕にはとても長く感じる1ヶ月間でした」
「……うん」
オレも長かった。
この1ヶ月、話したいことたくさんあった。
「このスマートフォン、昨日契約してきたんです。歩夢先輩と同じ機種です」
イチゴくんは嬉しそうにスマホを撫でる。
「それで遅刻したの?」
「それでってわけではなくて……。その帰りに地下鉄が止まってしまって……その後、駅を出てすぐお酒に酔った方とぶつかって、その方が持っていたお酒を被ってしまったため一旦帰宅してシャワー浴びてきました」
「おおう……それは災難だったな」
そんな目にあって更に不機嫌なオレと一緒に仕事はキツいよな。
本当に申し訳なくなった。




