53.
帰りは来た時と逆のルートを辿った。
フワフワの覚束無い道をイチゴくんにしがみつきながら歩き、謎の大扉は行きとは違って「ゴゴゴゴゴ……」と重々しい音を立てて開いた。
「音変えたのか?」
「はい。前回の歩夢先輩の反応がイマイチでしたので……。コレもダメですか?他には僕たちのバイト先のコンビニのメロディーも用意ーー」
「しなくていい!これでいい。……つか、寧ろ無音でお願いしますっ」
「はい。では次からは音は無しにしますね」
……あれ、イチゴくん、なんでそんなに笑顔なんだ?
オレ、もしかして墓穴掘った?
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
何もない空間にイチゴくんが手を翳すと突然扉が現れて開いた。
そこは出発地でもあるイチゴくんのマンションのクローゼットだった。
足元はフワフワからしっかりしたものに変わり、ホッと一息ついた。
「歩夢先輩、もう帰っちゃうんですかぁ?」
「帰るよ。イチゴくん、まだ仕事あるんでしょ。早く戻らないと」
出番がなかったキャリーをイチゴくんが持ってくれ玄関に向かう。
イチゴくんはオレを見送ったらすぐ向こうに戻るため髪も目もそのままだ。
だから、見送りは玄関までだ。
「歩夢様。こちらを」
シフシさんから紙袋を渡され覗き込むとお饅頭の箱が入っていた。
「シフシさん、コレって……」
「旅の土産になります。歩夢様を1週間お借りしたお礼です。こちらの世界の物で申し訳ありませんが、ご家族様にどうぞ」
「ありがとうございます!」
お土産のことをすっかり忘れていたから、これはすごくありがたい。
「あ、イチゴくんは8月いっぱい向こうにいるんだよね?」
「はい。戻るまで少しでも多く公務を手伝いたいので」
そうなると1ヶ月は会えないのか……。
「歩夢先輩?」
「あ、あのさ……」
うまく話せなくて焦るオレの様子にイチゴくんは首を傾げる。
「やっ、なんでもない。じゃあな」
バタバタと玄関を出てエレベーターホールまでダッシュする。
ボタンを押しすぐ来たエレベーターに乗り込むと、キャリーケースの取手にもたれるようにしゃがみ込む。
「……オレ、今何を言おうとした?」
あの時言おうとした言葉を思い出して赤面した。
外の暑さも相待って、オレの顔の火照りは家に着くまで冷めなかった。
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「ただいまぁ……」
1週間ぶりの自宅に入ると上がり框に倒れ込む。
「つ、疲れた……」
ストロベリー王国が快適すぎて、こっちの猛烈な暑さと電車移動は辛かった。
素晴らしい文明の利器を生み出した代償の温暖化による猛暑や満員電車には慣れていたはずなのに……。
こんなに厳しい世界だったとは。
「歩夢、おかえり~」
ヨタヨタとリビングに寄ると母さんが麦茶を飲みながら再放送のドラマ観ていた。
「た、ただいま。これ、お土産」
「ありがとう~。わっ、お饅頭!歩夢も麦茶飲む?」
「いや、いい。疲れたからちょっと寝てくるわ」
キャリーケースを抱えてフラフラ自室に戻るとエアコンを付けてベッドにダイブする。
「痛っ」
全然バウンドしないマットレスに顔面と壁に手をぶつけて呻いた。
セミダブルのスプリング硬めのベッド。
向こうとは何もかもが違っていて、こっちがオレの住んでいる世界だと思い知る。
ポケットからスマホを取り出す。
イチゴくんのマンションを出てからここまで一件も通知がなかった画面を見る。
「なんでオレ……」
無意識に呟いてしまいハッとする。
「もう寝よ」
スマホを放って目を閉じるが、結局眠ることができなかった。




