52.
「歩夢先輩、準備はできましたか?」
「準備……って、オレ、手ぶらできたじゃん」
少し長めの朝食の時間を過ごしたオレは、部屋に戻ると数少ない荷物のハンカチとスマホをポケットにしまうと、ぐるっと部屋を見渡し1週間お世話になった部屋と別れを告げる。
「じゃあ、行こっか」
「待ってください。その前に……」
イチゴくんはオレの左耳に触れるとカチっと何かを付けた。
「ん……コレ……ピアスか?」
「はい。今回も僕とお揃いですよ」
そう言って見せてくれた右耳には赤い石が付いたフープタイプの小さなゴールドのピアスが嵌っていた。
「石、綺麗だな。イチゴくんの瞳の色みたいだ」
「ふふっ、歩夢先輩ならそう言ってくれると思って石を選びました」
砕けてしまった石より濁りのないルビーのような綺麗な赤色につい見惚れてしまう。
「いいのか、こんないいものもらって……」
「この石は歩夢先輩が採掘した石ですから、むしろ貰ってください」
「えっ、マジ?」
「マジ、です」
オレはありがたく頂くことにした。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「1週間、お世話になりました」
深々とお辞儀をする。
「また、遊びにきなさい。歓迎する」
「向こうの話、聞かせてくださいね」
「はいっ」
このためだけのために、公務に行かずに待っていてくれた王様と王妃様にもう一度深々お辞儀する。
「アユくん、絶対また来てね!また市に行こうね!あとあと、たくさん遊んでね!」
「バドミントンだけはオレ手を抜かないぜ」
「うんっ」
子どもの無邪気な笑顔は可愛いなー。
キラピカくんの笑顔を愛でながら頭を撫でていると、オオキミくんも近づいてきた。
「騒がしい時もあったけど、まあ……結構楽しかった。災難もあったが懲りずにまた来てくれてもいい。……一応歓迎はする」
「オオキミくん……」
「おいっ」
なんというツンデレ具合。
可愛くてつい頭を撫でてしまうと、ものすごく嫌な顔して一歩下がられた。
そんなやり取りも最後だと思うと寂しいな。
「あっ、アユくん、あとねー」
「んー、キラピカくん、なんだい?」
目を輝かせて可愛いなぁ。
「もしアユくんがユキ兄様に捨てられたら、ボクがアユくんをお嫁さんにしてあげるね!」
「んん~⁉︎今、なんと……?」
「だーかーら、お嫁さん!だから10年待ってね」
イチゴくんに捨てられるの決定ですか……。
「キラピカ、10年経ったらアユムはおじさんだ。流石に無理がある」
「えー」
オレの笑顔にもヒクヒクと綻びが……。
確かにキラピカくんが18歳になって、あっちの世界に行く頃にはオレは三十路だけど。
オオキミくん、君、地味に酷いこと言うなぁ。
と、オオキミくんを見ると目が合った。
ふっと楽しそうに笑われーー
「それに……本当に捨てられたら、キラピカより先に俺が拾ってやる」
「っっ⁉︎」
オレの耳元に顔を寄せ囁いた。
その不意打ちにカァっと顔が熱くなる。
「……ぁ……」
このツンデレイケメンめっ、照れるじゃないか。
と思ったのは束の間。
赤かった顔は、後ろから肩を引かれてサァっと青くなった。
「歩夢先輩。もう出発しますよ」
振り向かなくてもわかる。
イチゴくんがめっちゃ不機嫌になってるぅ……。




