5.
強盗が押し入った日。
近所に住む店長に連絡すると15分ほどで駆けつけてきてくれた。
店長が来たことを確認したイチゴくんは、駆けつけた家族らしき男性と救急車に乗って病院に運ばれていった。
オレはというと、掌と頬っぺたに絆創膏貼っただけで済んだ。
それもこれも、イチゴくんが体を張ってオレを守ってくれたからだ。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「えーと、強盗が入ってしまったじゃない。スタッフに怪我人も出たから、ちょっとしたニュースになっちゃってね。営業を続けるのが難しくなったので暫くお休みすることになりました」
「……えっ?」
翌日の夕方。
店長に呼ばれてコンビニに行くと、いきなりの休業通達を受けた。
「い、いつまでですか?」
「うーん。そこの大学、そろそろ夏休みに入るでしょ。そうするとお客さん減るし。ならこのタイミングで改装もやっちゃおうってなったから、8月いっぱいかな」
「1ヶ月半も⁉︎」
「ああ、急だったから多少の補償はするよ。だから可愛くん辞めないでね」
店長はそう言ってくれたが、コンビニ以外のバイトやってないオレには困る。
実家暮らしだから生活には困らないが、毎月バイト代から家にお金は入れないといけないし、小遣いもここから捻出しないといけない。
夜勤に移ってから給料が増えて、今新しいゲーム機を買うための貯金も順調だったのに。
休業によってゲームをやる時間は増えるけど、休業によってそのゲームをするための機器とソフトが買えなければ意味がない。
「ごめんよぉ。もう業者も手配しちゃったんだよね」
「ぅ……はい」
そこまで決まってしまっているなら仕方がない。
派遣バイトに登録して日雇いで働こう。
オレは項垂れてため息をこぼした。
「ーーあっ!」
「どうしたの?」
大事なことを忘れてた。
オレは頭を上げ店長に詰め寄った。
「あのっ、イチゴくんは大丈夫でした?」
「一后くん?ああ、彼は大丈夫だったよ。10針だったか15針だったか縫ったとか言ってたけど」
「いっっ!」
結構重症じゃん。
「彼には本当に申し訳ないことをしたね。優しくてカッコいい子なのに傷作っちゃって……」
しょんぼりする店長にオレもしょんぼりする。
だってあの怪我はオレを守るためにできた傷だから。
「しかも怪我したの利き手だったから、暫く生活も不便だろうね……」
店長の言葉に余計落ち込む。
もう一度、ちゃんと謝罪とお礼を言いたい。
でも、コンビニが休業となったら暫く会えないし、もしかしたら今回のことで辞めてしまうかもしれない。
そうしたら二度と会えなくなるかもしれない。
そう思ったら胸がギュッて痛くなった。
「あの、店長」
「なんだい?」
「イチゴくんの住所教えてもらえたりできますか?……オレ、あん時パニクってて、イチゴくんにちゃんとお礼言えてなくて……」
「彼なら気にしないと思うよ。状況が状況だし仕方がないよ」
そう言って店長は優しく頭を撫でてくれる。
うん。イチゴくんなら「気にしないでください」って笑って言ってくれる。
「でもっ」
でもそれじゃあオレがオレ自身を許せない。
謝ったところで罪悪感がなくなるわけじゃないし、自己満足って言われてしまうかもしれないけど、ケジメとして謝りたい。
「……うん。そうだね。会いに行って、ちゃんとお礼を言ってくるといいよ」
店長はエプロンのポケットから取り出した二つ折りのメモをオレに差し出した。
「これ……」
「一后くんがね。もし可愛くんが連絡先聞いてきたら教えていいって言ってたんだ。可愛くんにだけ教えて良いって」
メモを開くとイチゴくんの住所が書かれていた。
彼の家は意外に近くにあるようだ。
「あ、ここ休業するからお菓子とかジュースとか欲しいものあったら持っていっていいよー」
「ありがとうございます!」
オレはレジ袋にめいいっぱいお菓子とジュースとアイスを詰め込んでイチゴくんの家に向かった。