36 6日目
あゆ……む……
モヤの中で誰かがオレを呼んでいる?
……を……んで……
何を言ってる?
今そっちに行くからちょっと待ってろーー
駆け寄ろうとするのにその距離は全然縮まらない。
それどころか足が重くて動かなくなる。
足元を見ると体は半分以上地面に沈んでいた。
抜け出そうとしてもがけばもがくほど体が沈む。
……を……呼んで……
いま呼ぶ。
呼ぶから……
オレは口を大きく開いてーー
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「っ!」
目を開けると木目の天井があった。
崖から落ちたショックで意識を失って、そのまま寝てしまったみたいだ。
「天井……低いな……」
昨日まで見ていた天井は真っ白で呆れるくらい高かったのに、それに比べたらこの天井はシミだらけで手を伸ばしたら届きそうな気がする。
「夢は……あっちだったのか……」
寝返りを打つと硬い感触に体が痛み、横になっているのが辛くて体を起こす。
あの高さから落ちたはずなのに、床で寝たことによる体の痛み以外無傷であることを不思議に思いつつちょっとホッとした。
薄暗い部屋の見上げると窓から薄ら差し込んでいた。
この明るさからして夜が明けたばかりのようだ。
「ここにきて1番の早起きだな」
つい笑ってしまう。
こんな事態に陥らないと早起きできないなんて。
薄暗い部屋の中を見渡す。
10畳ほどの小さな家のようで、真ん中にストーブ、隅に薪の山がある以外、家具はなかった。
そのため床の上で眠ることになったようだ。
というか、この状況でよく寝たなオレ。
立ち上がり背伸びをして固まった体をほぐすと、狭い部屋の中を移動して窓の外を覗き込……もうとしたが窓画の位置が高すぎてオレの身長では覗く事ができなかった。
「何なんだよ、この部屋は」
「狩猟者の避難小屋だ」
「うわあっっ!」
背後から突然声がして悲鳴とともに部屋の隅へ飛び退いた。
「……って、アウルかよ。ビビらせんな」
「あー悪い悪い。仕事の癖でこの動きが慣れちゃってさ。食いもん持ってきたぜ。アユム、腹減ってるだろ?」
音を立てずに近寄ってきたアウルは、持っている袋をオレに差し出す。
「こんな状況で腹なんて減るわけないだろ」
「イヤイヤ、お前をここに運んだ時からずっと『グーグー』鳴っていたぞ」
アウルはククッと笑いながら、袋をオレに持たせた。
「そ、それはきっと寝言だっ」
真っ赤になって否定するが、空気を読まないオレの腹の虫が「グゥ」と鳴ってしまう。
「ブッ……クックックッ、そ、それも寝言かぁ?」
腹を抱えて笑うアウルを忌々しく思う反面、生理現象を抑えられないオレの腹の虫を恨んだ。
とはいえ、腹が減っては何とやらだ。
まだ笑っているアウルをほっといて袋の口を開けると中には赤い実が入っていた。
「これ、木いちご?」
「ククッ……ああ……ふふっ……その辺に生えているのを……ふははっ……採ってき……ブハッ……ハハッ」
「笑うか喋るかどっちかにしてくれっ」
結局、アウルはしばらく笑い続けた。




