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2.

出会いは4月20日木曜日の16時42分だったとイチゴくんは言った。


やたら細かいがそこはスルーしよう。



「僕、あの日、ここに来て生まれてはじめて買い物をしたんです」

「生まれてはじめてって……大袈裟な……」


うっとりしながら思い出すイチゴくんについツッコミを入れつつ話を聞く。

お客さんが来たら容赦なく中断するけど。


「好きに使っていいって貰った1000円握りしめてこのコンビニに着たんです。食べ物や飲み物だけでなく文房具や下着まで売ってて僕すごくビックリしました」

「へぇ」


ん?

何か思い出しそうな気が……。


「僕、1000円以内で買えるだけ買おうと思って計算しながら商品を選んだのですが、いざレジでお会計したら5円足りなくて……」


んんっ?

これって……。


「その時、レジ担当をしていたのが歩夢先輩だったんです」

「……ああっ。あん時の5円残念イケメンくんかっ?」

「はいっ。思い出してくれたんですか?」


オレはやっと思い出した。



❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


「レジ袋は如何しますか?」

「えっ、あっ、ください」

「この量だと2枚になりますが」

「はいっ、ください」

「では、お会計が1005円になります」

「……え?」


金額を伝えると目の前のお客さんが固まった。

目をキョロキョロさせ、明らかに動揺している。


「お客様?」

「あのっ、999円じゃあ……」

「レジ袋1枚3円なので全部で1005円です」

「レジ袋……有料……」

「お客様?」


お客さんの手には1000円が握られていて、財布らしきものは持っていないようだ。


「何かキャンセルしますか?」

「えっ?いや、でも買うって決めて持ってきたものにそんなこと……」


20円のチョコ1個買うのを辞めたら足りるのに、意地なのか欲しいのかそれをしようとしなかった。


本人がキャンセルする気がないのにこっちで勝手にキャンセルはできない。

でも、このままで待つことはできない。

そうこうしているうちに、新たな客が来店した。

どうすっかなぁとエプロンを握ると何が硬い感触があった。


「ぁ……」


エプロンの下のスキニーパンツのポケットに手を突っ込み硬いものを掴み出す。

それは、バイト前に買ったおにぎりのお釣りの5円だった。

オレはフッと息を吐くと、手を伸ばして1000円を握る手を掴んだ。


「えっ」


同様のあまり強く握ったせいで少しシワシワになった1000円札の上にその5円を載せる。


「1005円ちょうどですね。お預かりします。レシート要りますか?」

「ぇ……あ、欲しいです」

「わかりました。商品を袋に詰めますので少々お待ちください」


レシートを渡すと手早く商品を袋に詰め込んだ。

お会計の間に1人並んだから急いだ。


「お待たせしました」

「あ、あのっ、5円……」

「いいですよ、そのくらい。でも返してくれるんなら、今度買い物に来た時にここに入れてください」


袋を持って慌てるお客さんに小声で言い、レジの脇にある募金箱を指さした。

それでも募金箱とオレを交互に見て立ち去らないお客さんに、流石にちょっとイラっとした。


「ありがとうございましたー」


トドメの一言を言うと、そのお客さんはハッとして出ていった。



❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


「僕、あの時の先輩の姿に一目惚れしたんです。それからあの時間帯に何度か来たんですが、先輩がいなくて……」


モジモジしながら言うイチゴくん。

あの翌日からGWまで早番勤務だったから居ないわな。

つか、イケメンはどんな仕草もイケメンなんだなってちょっと思った。


「オレ、募金箱に入れろって言っただろ?」

「入れました!でもお礼は先輩の顔を見てちゃんと言いたかったんです」

「なら初日に言えよ」

「……ぁ」


夜勤始めて半月。

イチゴくんはやっとその事に気づいた。


お礼より先に交際を申し込んできたこの残念イケメンは、5円が繋いだ御縁だった。




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