15.
オレの披露目の宴は19時開始し、深夜1時頃を目安に終わるらしい。
「あ、でも、先輩は最後まで居なくても大丈夫ですよ。僕たち王族も居ても1、2時間程度ですから」
「うん。それは助かる」
今回の宴には男爵以上の階級があり都合がつく貴族が出席するらしい。
オレの披露目は宴を開催するための名目くらいの扱いで、実際はイチゴくんの一時帰還の祝いだと言われて少し安心する。
まあ、イチゴくんの恋人のフリで異世界に来ただけだし、嫁ぐわけではないから宴のダシに使われるくらいでちょうど良い。
宴用の服もイチゴくんが用意してくれた。
動きやすいようにスカイブルーのスーツだ。
昨日イチゴくんが着ていたような服を着ることを想像していたからちょっとだけガッカリした。
でもアレをオレが着たらコスプレにしかならなかっただろうな。
あとイチゴくんにオレがすべき最低限の所作を教えてもらった。
向こうに帰ってからも役に立ちそうなものが多く、そこまで難しいことは求められなくて安心した。
「歩夢先輩には僕が付き添って対応しますから大丈夫ですよ」
オレの隣で寄り添うとニッコリ笑った。
うん。
近い。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
イチゴくんが居れば大丈夫だ。
そんな楽観的に考えていた数時間前のオレを殴りたい。
「これはこれはアワユキ王子。留学先は如何ですか?王子は我が国の宝でありこの国の誇りです。皆王子が居られないと寂しく思っておりますよ。と……そちらの方が御婚約者の方ですね。なんというか……へぃ、普通な方ですね。きっと私のようなものには見えない魅力をお持ちなのですね」
『平凡』を『普通』に言い換えても意味は変わらねーつぅの。
こんな言葉をもう2桁は聞いた。
『普通』なんて言われなくてもオレ自身がそれを十分わかってるさ。
それを無理矢理褒めてくれてもさ、その褒める先はイチゴくんだし。
「アワユキ王子」
オレたちの後ろに控えていたシフシさんがイチゴくんに何か耳打ちすると、少しだけ眉を顰めた。
「歩夢先輩。挨拶しなければならない方がいらっしゃったようなので少し席を外します」
「ああ、わかった。イチーーアワユキくんが戻ってくるまでそこでご飯食べてるよ」
「はい。すぐ戻ってきますね」
名前を呼ばれて一瞬嬉しそうな顔をした後、名残惜しそうな顔をしてシフシさんと歩いていった。
イチゴくんがオレから離れると周りにいた人は一気に掃けた。
「さて」
身軽になったオレは会場の隅に移動する。
大きなテーブルには美味しそうな料理がたくさん並んでいる。
ビュッフェスタイルなのか、料理はすべて一口サイズだ。
こんなにたくさんあるのに人は居ないなんて勿体ない。
誰の手もつけられていない料理を一つずつ皿に盛る。
サーモンとローストビーフは外せない。
「うっまー」
流石王宮の料理と言うべきか。
朝食やアフタヌーンティーでも思ったが、庶民のオレには一生口にできない美味しい料理ばかりで感動する。
つい夢中で食べてしまっていて、背後に人が立っていたことに気付くのが遅れた。