12.
最初に案内された貴賓室に着くとイチゴくんが人払いをしてくれ、オレはやっと落ち着くことができた。
「つ、疲れたぁ……」
「先輩、お疲れ様です」
イチゴくん手ずから淹れたお紅茶のティーカップをオレの前に差し出した。
格好はアレなイチゴくんをジッと眺める。
何かを忘れているような……。
「あーーっ!」
「どうしましたっ?」
オレの声に焦ったイチゴくんがテーブルに手を着き身を乗り出した。
「イヤイヤイヤ、何してんだよっ。イチゴくん、手怪我してんのにっ」
今度はオレが焦ってイチゴくんの手を掴む。
慌てるオレの様子にイチゴくんはキョトンとした顔をした後、すぐに嬉しそうに笑った。
オレに掴まれた右手の手袋を外すと、そこには巻かれていたはずの包帯はなく掌にもザックリと切れた痕や縫った跡もなかった。
「あ、あれ……?イチゴくん、怪我してたよね……?」
「治療師に治癒魔法をかけてもらいました。あの時言ったでしょう。すぐ治るって」
グーパーして怪我がないことをアピールする掌を恐る恐る触れる。
ナイフを握って深く切れたくさん血を流していた指関節は、あれは夢だったかのように元に戻っている。
「へぇ、魔法って凄いんだな」
感心して撫でているとその手がプルプルと震え出した。
驚いて顔を上げると真っ赤な顔をしたイチゴくんと目が合った。
「イチゴくん?」
「っ、先輩っ、僕と結婚してくださーー」
「断るっ!」
オレの手を握って突然プロポーズしてきたから、間髪入れずにその手を叩いて断った。
そんなオレの反応にイチゴくんは「ふふっ」と楽しそうに笑った。
「これから1週間で必ず歩夢先輩をその気にさせてみせますからね」
そう言うとオレの手の甲にチュッと音を立ててキスをした。
い、イケメンの宣戦布告は心臓に悪い。
ドキドキ高鳴る胸を押さえてそう思った。