1.イチゴくん
2度目の大学受験に惨敗したオレは、この春からフリーターとなった。
両親からはあと一回は受験していいと言われたが、二度あることは三度あるし、あと一年頑張るモチベーションはもうなかった。
ならば、就職してお金を入れてと言われたが、なんとしても大学入ることしか考えてなかったから何をしていいか判らない。
と、いうことで浪人中から始めたコンビニバイトを引き続きやっている。
ただ……。
このコンビニ、オレの志望大学の近くにあり、浪人中はここに買い物に来る生徒を週4見て己を鼓舞していた。
そんなモチベーション維持のためだったが、進学を諦めてしまうと毎日来るリア充共への接客が辛い。
だから、GW明けからの勤務を週4昼間から週4深夜に切り替えた。
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もうリア充共を見ることはないと清々したのに……。
「歩夢先輩、結婚を前提に僕とお付き合いして下さーー」
「無理っ。オレ、女の子が好きだもん」
「即答。でも、ハッキリ言う先輩、僕好きです」
オレの隣で寝言を言うのはバイト仲間の一后淡雪だ。
しかも、オレと同じパーツを持つ男だ。
更に、平凡なオレと違ってイケメンに分類される人種だ。
イチゴくんはオレの志望大学の新入生で見るからにリア充お坊っちゃまなのだが、何がどうしてかここのバイトを先月から始めて、今月からオレと一緒に深夜勤務をしている。
勤務初日「結婚を前提に僕とお付き合いしてください。そして僕の国に来てください」と告白されたオレは面食らった。
それから早半月。
勤務の度に寝言を聞かされ耳タコのオレはやっとスルースキルを身に付けた。
それでもめげずに事あるごとに寝言を発するこのイチゴくんから逃げたいのにシフト丸かぶりで逃げられないときた。
イケメン好きの店長がコイツに可愛くお願いされたのだろう。
まあコイツのおかげでウチの店舗の売り上げは爆上がりしたから、多少のお願いは仕方がないのかもしれないが。
そのおかげでシフト丸被りのオレの深夜は一気に忙しくなった。
「イチゴくん。オレは男だよ。身体には君と同じパーツが着いてんの。判るよね?」
「僕、先輩のなら見たいです!触りたいです!」
「はああぁぁぁぁ」
話が通じなくてため息が出た。
つか、コイツしれっと「触りたい」と言いやがった。
「なあ、なんでオレなん?」
「一目惚れです」
「一目惚れ……て、君、審美眼どっかに落としてきたの?オレ、見ての通り平々凡々な野郎だよ」
「僕にはとーーーーーーーっても可愛いです!」
オレを見る真剣な目は本気のようだが、イケメンのマジ顔は男のオレでも赤面してしまう。
「だいたい、君に一目惚れされるようなイベント覚えてないけど」
「それはですねーー」
イチゴくんはツラツラとオレに一目惚れした出来事を話し始めた。