last 小唄、サナ、蒼の
私の名前はサナといいます。
名前はお母様がつけてくれました。お母様自身と、私達家族の大切な方々の名前、併せて四名の名前がこめられているんだそうです。
すごくないですか? たった二文字の名前で四名も!
世界で一番と言ってもさしつかえない、とぉっても素敵な名前だと思いませんか?
「ぷわぁ~……そーたぁ、朝ですよぉ。おはようございまぁーす」
今日も私が先に目覚めたので、同じ寝台に寝ている双子の弟に覆いかぶさって声をかけます。息が苦しくないのでしょうか、そーたは分厚い羽毛布団の中に全身潜り込んで眠るのが癖なのです。
私達が暮らすクラシニアという国は砂漠のど真ん中にあって、特に今のような季節はとても暑いです。にもかかわらずそーたは季節を問わず、こんな暑苦しげな布団の中で寝起きするのです。私はとても同じようには出来なくて、暑い季節は薄布を掛布団にして寝ています。
呼んでも叩いても布団から出てこないので嫌な予感がして、引っぺがしてみます。私もまだ体がちいさいお子様なので布団の大きさと重さに苦労しましたが。
「ほらぁ~、また蒸しあがっちゃってるじゃないですかぁ」
案の定、汗だくになってぐったりしています。こんなことはしょっちゅうですが、笑い話ではありません。
急いで寝台から飛び降りて、廊下を駆けてお水を汲んで私達の部屋へ戻ってそーたに飲ませてあげました。
ちょっぴり頼りなくておっちょこちょいな弟ですが、こういうところが放っておけなくてかわいらしくて。のんびりさんでいつでも優しくて、大好きな、自慢の弟です!
ちなみにそーたの名前も私と同じで四人の方の名前を合わせたそうで、お父様がつけました。よくよく考えたらお父様自身の名前もひともじですが含まれていたので五人ではないですか? と指摘しましたが、どうしてかとぼけられてしまいました。
大切な方々といっても私とそーた自身はその方々にお会いしたことはありません。すでに亡くなっているのだそうです。
「私、おとなになったらそーたと結婚します!」
「何度も言ってるでしょ? きょうだい同士で結婚は出来ないの!」
「お母様が法律を変えて、結婚できるようにしてくれたらいいじゃないですか~」
「きょうだいで結婚出来ないのは法律だけの問題じゃないの!」
「そんなぁ~」
お母様はクラシニアの法律を変えるために、国の外にいるお友達を集めてかくめい? うんどう? しゅうかい? よくわかりませんが色々とくわだてているそうなのです。
私達、クラシニア王家は自由にお城から出られないで国にお仕えすることが法律でさだめられています。お母様は若い頃はせかいじゅうを旅してきたそうで、お城の中に閉じこもりっぱなしはがまんできない、私やそーたが自由に外へ出られるように法律を変えたいと言います。
「みんなただいま~。会いたかったよソウタ!」
こちらはノアお兄さん。お父様の義弟で、お母様のお願いで国外を周っています。そーたのことが大好きで、お帰りになるといつもまっ先にそーたを抱っこして頬ずりしています。
「いつも言ってるだろ。あんまりソウタばっかり甘やかすなって」
「甘やかしてないですぅ~。甘えてるんですぅ~」
お父様に毎回たしなめられても、ぜったいに言うことをきいてくれません。「もし会えたら千年分甘えるって決めてたのにやりきれなかったんだから、好きにさせてよ」なんて以前言っていましたが、どういう意味なんでしょうね。
「だいいち、姉さんのお願いでボクがあっちもこっちも行って外の仲間と調整役してるっていうのに随分じゃない。結構大変なんだよ? 逆の立場だったらコウにはぜったい出来ないでしょ」
お父様はそもそも引きこもり体質というか性格らしく、お母様みたいに法律を変えたいとはそんなに思っていないそうです。お母様と私とそーたと、お城でのんびり暮らすのもそんなに悪くないと思っているのだとか。
姉さんが世界を旅して三十年くら経っててみんな五十代六十代になってきてるから、そろそろ行動しないと間に合わなくなりそう。ノアお兄さんは今回はそんな報告をして、お母様もそうだね、そろそろ本腰入れないとね! と決意をあらたにしていました。
「コウ君はそれで良くても、サナやソウタに外の世界を見せてあげたいって思わないの~?」
お母様はこういう話になる度に、ほっぺたをぷりぷり膨らませて注意します。お父様はいつも通り、床にどっかりあぐらをかいて両耳を手でおさえて、「アーアーキコエナーイ」の体勢です。
「友達としては見てて面白い人だと思うけど、姉さんは本当にコウで良かったの? 夫・父親としてはダメすぎじゃない?」
「いちど母性本能をくすぐられてしまうとね……ダメなところもかわいく思えてしまって他の人じゃ満足出来なくなっちゃって……」
「うわぁ~。ダメな人をダメな人のままにしちゃう思考だぁ~……って、こんだけ甘やかされてるくせにボクには甘やかすなってずるいんだけど!」
あ~あ、ノアお兄さんまで怒り出してしまいました。
ノアお兄さんに抱っこされたままみんなのお話しを聞いていたそーたが、ぴょいっと飛び降りました。てとてと、お父様のとなりまで歩いていき、右肩をつつきます。
「大丈夫だよ。そーたが大人になったら、お父さんを助けてあげるから」
にこにこ笑顔でそう言います。そーたはお父さんっ子で、お父様が大好きなんです。
「サナもー! 女王様になってお父様に楽させてあげますからね!」
思わず張り合って、お父様の左側まで駆け足して、肩につかまってぴょんぴょん跳ねて主張します! 同じ日に生まれた双子ですが、私の方がお姉さんなので、サナは「クラシニア第三十七代王位継承予定者」なんです。
そーたは、「サナが女王様になって誰かと結婚したら、いちばんの家来になって助けてあげる」と言ってくれています。だったらそーたと結婚するのがいちばんでは? と思うんですが、それだけは絶対に無理! なんですって。ざんねんすぎますね~。
お母様はクラシニアをみんしゅせい? にして王家そのものを無くしたいそうなので、お母様と仲間の皆様が目標を叶えたら私は女王様になれないそうなのですが。どうしてもなりたいわけじゃないので別にいーです。
「こんな小さい我が子にここまで言われても心が動かないのぉ? 筋金入りすぎて怖ぁ」
「うるさい……動いてなくない」
「えっ!」
億劫そうですが立ち上がり、ノアお兄さんの持っている紙のたばをうばい取るお父様の動きに、お母様は目を輝かせています。
「俺だってやれることはやる……生まれ変わってまでこいつらに面倒みられるわけにいかないからな」




