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GRASSBLUE青草日記~終末までの千年間ロード(旅)ファンタジー  作者: ほしのそうこ
旅するイリサ 【Blue dragon Mother=Claire】
36/46

特別編 海(まま)に会いたい。

このページはノベルデイズで連載予定のチャットノベル版書き下ろしおなろうで先行公開しています。

「ん~……、……? なんだか見慣れないな……」


 その日、影の世界にて宿の一室らしき場所で目覚めたそーちゃんは、馴染みの薄い空気感を感じて戸惑いを覚えました。安い宿泊施設といえど、その国がどこなのかによって、それぞれ特色が異なるものですから。例えばクラシニアの宿でしたら、太陽竜様信仰一色の国なので真っ赤な絨毯が敷かれています。


 夢の中での目覚めというのは、厳密には目覚めているといえるのでしょうか。それはともかくそーちゃんは、寝起きの頭で窓辺に寄っていきました……そこに広がっていた、景色は。


「ここはね。そーちゃんが子供の頃。自分の体で生きてた最後に来た国だし。とっくの昔に滅びた国だし、覚えてなくても無理ないし」


 覚えていないはずなのに、どこか懐かしい。どこまでも先に広がっているかのように錯視する、現存するどの大国よりも大きな……かつての、グラス王国。その、建国祭の風景が眼下に繰り広げられていたのです。


 奇妙な胸のざわつきを感じながら喧噪を眺めたそーちゃんは、不自然に投げられた背後からの甲高い声に振り返りました。


 その子は小さな女の子で、金色の髪を肩よりほんのわずか長いくらいに伸ばしていました。前髪が短く、大きなまあるいお目目がぱっちりとよく見えます。左耳の少し上に、青い魚の形の髪飾りがついていて……どういうわけか、少々の敵愾心を滲ませた眼差しで、そーちゃんをまっすぐ睨みます。彼の腰よりやや低い程度の背丈なので、自然、そーちゃんは彼女を斜めから見下ろす形になりました。


「だれ?」

「うーちゃんだし」

「うーちゃん?」

「伝承に知られる名は、海竜マザー=ブルーだし。そーちゃんはこの前、(まま)から大切な神器を受け取ったし?」

「まま?」

「あぁ~~~もぉ、察しが悪くてイライラするしぃ~~っ!」


 うーちゃんは外見こそ幼い少女ですが、精神はそれに相当しているわけではなく成熟していて。そして、少々、短気な気質のようでした。


「うーちゃんの、(まま)は、母神竜さまだしっ!」


「母神竜……ていうと、イリサのことか?」


「そうだし!」


「それで、この前受け取ったっていうと……別れ際に渡された、石みたいな青いやつかな」


「やぁ~っとわかったし~? うーちゃんは母神竜さまの神器だし」


「神器って喋れるのか? おまけに、人の形になって」


「いつでもどこでもそうってわけじゃなし、条件次第だし。(まま)からうーちゃんを託されたそーちゃんはね、今、うーちゃんの所有者なんだし」


 彼女の説明によると、所有者であると同時にここが影の世界であるからこそ。母神竜様の神器である彼女は人の形と意識を得て、こうして対話することが出来たのだそうです。


「うーちゃんはこうやって、いっつも(まま)以外の誰かに使われてばっかりだし。うーちゃんが会いたいのは他の誰でもない、(まま)なのに……もううんざりだし」


「それは気の毒だけど……そもそも母神竜って、なんで自分の神器を自分以外の誰かに使えるようにしたんだろう」


 同じ神竜族のきょうだいであっても、巨神竜様の神器はシーちゃん達だけが。断罪竜様の神器はパー様にしか使えません。他の神竜様に貸与することなど、想定すらしていないのではないでしょうか。太陽竜様と傀儡竜様の関係は特例ですが、母神竜様の神器も特殊ですね。


(まま)がうーちゃんを作ったのはね、この(せかい)みーんなの(まま)でいるんじゃなく、ひとりの(まま)になりたくなったからなんだし。でも自分だけが神竜族の使命から外れたいなんて、ごきょうだいに対して申し訳ないって思ったんだし。だから、使命のないひととして生きたくなったごきょうだいや竜族がいたら誰でも自由に、うーちゃんを使えるようにしたんだし」


「なるほどな」


 母神竜様は厳密には私そのものではないはずですが、なんとなくイリサっぽい発想だなぁ。なんて、そーちゃんは胸の内で納得していました。


「それはそうと、せっかく外では見たことないような規模の祭りが開催されてるみたいだし。オレ達も見に行ってみるか?」


「やったぁ! 楽しそうだしー!」

 もちろん、自分自身が人の形をなしてお祭りに出かけた経験などないうーちゃんは、両手をあげてぴょんぴょん跳ねて、全身で喜びをあらわしていました。それを見てもそーちゃんはくすりともせずごく当たり前に、うーちゃんの小さな手を繋ぎます。うーちゃんはちょっと面食らったように眼をしばたたかせた後で、まぁいいかと思い直して、浮足立って歩いていくのでした。自分の倍以上の体の大きさのそーちゃんを引っ張っていくような、力強さで。



「わぁ~~っ! 人間が多すぎて大海よりも険しい波に押されるし~~! こんなん楽しむどころじゃないし~~っ」


 迷子になってしまっては可哀想なので、そーちゃんははいよっと掛け声を投げつつ、人波に飲み込まれる寸前のうーちゃんを腕に抱き上げました。


「あ……ありがと、だし」

「神器だからかなぁ。体の重さが全然ないや」


 あの頃のそーちゃんはこんな風に、コウに抱っこされてお祭りを楽しんでいたのに。今はすっかり大人の男の人になって、小さい子に同じようにしてあげられるようになったんですねぇ……。


「……オレは自分がこの国にいて、見た景色のことなんか全然覚えてないけどさ。オレを育ててくれた親みたいな人達がこうやって歩いてくれてたってことは、なんとな~く、体が覚えてる気がする」


「……そーちゃんにも、ままとぱぱがいたし?」


 うーちゃんという神器の所有者になった時から、そーちゃんの情報は彼女が共有しています。ですがうーちゃんは、あえてそーちゃんの口から(イリサ)のことを聞いてみたくて、そう訊ねました。


「産んでくれた本当の親とは違うみたいなんだけど。そうじゃないって知った後でも、オレにとってはあのふたりが親みたいなものだって感覚は変わらなかったなぁ。顔とか思い出とかはもう覚えられてないけど、一番大切なことだけは絶対に忘れないって決めてるんだ」


「いちばん?」


「ふたりの名前が、コウとサクラっていうのと。ふたりとした約束。大人になったら、オレがみんなを助けるって」


「『みんな』……だからそーちゃんは、自分のままとぱぱがしてくれたみたいに。こうやって、うーちゃんを抱っこして歩いてるし?」


「ちゃんと意識してそうしたわけじゃなかったけど、無意識で、そうしたのかもしれないな」


「……いっとくけど、うーちゃんはそーちゃんよりずぅ~~っと年上だし! お子様扱いすんなし!」


「そうは言われてもなぁ。人間、見た目の印象に引きずられて接するのは仕方がないっていうか。それが自然じゃないか?」


「わぅ~……うーちゃんはどうして、いつまで経っても小人の見た目のまんまだし~? 他の神器はそうじゃないのもいるのに、不公平だし!」


「神器って確か、神竜が自分の羽を切り落として、それが武器の形に変化したんだったよな。神竜の体だって老化するのに人とは比べられないくらい、とんでもない歳月がかかるっていうし。その体の一部だから、神器もそうなるってだけなんじゃ?」


「そんなのうーちゃんだってわかってるし! 知ってても文句言いたい時だってあるんだし!」


「何を言っても怒りだす……お子様なのは見た目だけじゃなく、心だって同じなんだよなぁ」



 でも、まぁ。そう言ううーちゃんの気持ち、オレはわからなくもないかもしれない。


 オレも、もし、コウやサクラにまた会えたとしたら……あの頃みたいな「小さなそーちゃん」じゃなくて。ひとりの大人の男になったオレとして見てもらえたらなって、思うからな……。



 ……そーちゃんは言葉に出さず、自分の中でだけ、そう想っていたのでした……。この時に限らず、長く長く。遥か昔から。影の世界の海となって彼を見守るようになってから、私はようやく気付きました。それは、あまりにも遅すぎた理解でした。






 それから「約束の日」までの、長い歳月。そーちゃんが影の世界で目覚めると、うーちゃんがこのように接触してくることが何度かありました。その度にそーちゃんは、影の世界の中にあらわれる国々を、うーちゃんが楽しめるように付き添ってあげていました。


「……うーちゃん? ……どこ、行ったんだろ」


 ある日。砂浜で海遊びに付き合ってあげていたそーちゃんが疲れてひと眠りして目覚めると、眠りにつく前はそこにいたうーちゃんの姿はどこにもなく。そして彼女は、二度と彼の前に現れませんでした。



 うーちゃんは、僅かな期間ではありましたが、月光竜様に所有されていましたので。私達にこれから訪れる結末と、自分の去り際を知っていたのです。



 彼女は眠るそーちゃんを起こすことはせず、砂に指を突き立てて別れの言葉をそこに刻みます。


 しかし、外の世界と同様に、影の世界にも風が吹きます。彼が目覚めた時にはすでに、うーちゃんの遺した別れの言葉は海風に吹かれて消えていました……。

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