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GRASSBLUE青草日記~終末までの千年間ロード(旅)ファンタジー  作者: ほしのそうこ
旅するイリサ 【Blue dragon Mother=Claire】
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8話④ カイン・リークイッド

 コウ君と私の旅の目的は、フウ君を手にかけて以来姿を消してしまわれたソウジュ様の姿を追い求めるためでした。


 ソウジュ様の白髪と青い瞳という組み合わせは人間社会にはそうあるものではなく稀少で、街々を歩いてそういう人がいなかったか聞き込みをするだけでも有力な情報は頻繁に得られました。


 それでも広い世界をたったひとりの人を探し当てるのは簡単ではありません。コウ君も千里眼を持っていますが、あれはあくまでどの辺りに目標があるかわかった上で見ないと意味を成しません。




「こんなんでどうかな」


「うわ、似てる似てる。相変わらず絵ぇ上手いよな」


「人事部で鍛えられたおかげかな」




 聞き込みの際にソウジュ様の似顔絵があった方が良いのでは、というカイン君の提案で、コウ君の記憶するソウジュ様像を絵に描いてみたのです。


 統一軍人事部で書類整理の仕事をしていたコウ君は、面接の際についでとして新入隊員達の似顔絵を書類に添えて提出したところ、これはわかりやすくて良いではないかと大評判でそれがすっかり定番化してしまいました。


 結果的に統一軍は滅びたので後任は必要ありませんでしたが、コウ君が去った後にその仕事を引き継げるような技術をお持ちの人は果たしていたのでしょうか。




 短期間で膨大な数の似顔絵を描いたことで手慣れたというのはもちろんですが、私としましてはやはりコウ君……いいえ、そーちゃんの出自から受け継いでいるのではないかと思うのです。ヒナマル家が代々磨き、培ってきた絵の技術はそーちゃんにも伝わっているのですよ、きっと。そう信じた方が幸せというか、救われる気がするので……そういうことにしたいと思います。






 この時の絵を描くための画材は、カイン君の口利きで王立軍で使われているものをお借り出来ました。日雇いで食いつなぎ定住もせず、転々と移動する旅暮らしでお金の余裕が全くないコウ君は、こうしてカイン君によく助けてもらっていました。数年に一度くらいの頻度ですが旅の途中に王都ペルノを訪ねては、お互いの近況や思い出話に花を咲かせていました。






 この頃は手紙でくらいしか連絡手段のない時代でしたから、齢六十を過ぎたカイン君が老齢によって命を終えようとしていても、旅の途中のコウ君にそれを知る手段はないはずでした。本来でしたら。




 影の世界のコウ君は夢幻竜様の能力によりそれを察知し、珍しくそーちゃんではなく自ら体を動かして病床のカイン君を訪ねました。この時は私も連れて行ってもらえなくて、こうして影の世界から見守っています。まぁ、私とカイン君には直接的な接点がありませんので、最期の時にお邪魔するわけにはいきませんよね。




「……なんだ、おまえかよ。何しに来た? 人がもうじき死にそうって時に、まるで嫌がらせだな」


 カイン君は一目見た瞬間に、このコウ君が自分の友人ではないことを見抜いてしまいました。


 随分と辛辣ですが、カイン君にとっての友人のコウ君はそーちゃんの方なので……今わの際、今生のお別れになってしまうかもしれないというのに、その友人に会わせてくれないなんて。嫌がらせと思われてしまえば否定し難いのも事実です。




「言っておくが……おまえの作るっていう世界がどんなものだか知らないけど、俺はそんなところへ行くのは御免だからな……たとえそこでフウに会えるんだとしても、俺の命は俺だけのもんだ……他人の好き勝手に動かされる謂れはねぇからな……」




 もう四十年以上も前にたった一度、聞かされただけのお話だというのに、カイン君はちゃんと覚えていたみたいです。




「……カインが俺に会いたくないのくらいわかってる。用事が済んだらすぐあいつに代わってやるよ」


「用事……?」




「あいつの名前。ソウっていうんだ」




 そーちゃんは、コウ君の体を使っている時、決して自分自身の名前を名乗りません。




 カイン君が自分を嫌っているとわかっていても、自分が教えてあげなければ、カイン君は大切な友人の本当の名前を知らずに命を終えてしまうことになる……それはカイン君にとっても、そーちゃんにとっても申し訳ないと、コウ君は考えたのです。




「……そう、だったか。家名は」


「そっちは本人も知らないらしいから……」


「だったら……あいつは……ソウ・ハセザワだな」


「……ああ」




 今になって、コウ君は少し、後悔し始めていました。体を貸すのはいいとして、コウ・ハセザワを名乗らせたのは間違いだったのではないかと。




 幼いコウ君達の浅知恵で想像していたよりも、周囲の人達にそーちゃんがコウ君ではないとバレバレでしたし。コウ君は事情があって体を使わせてくれているけど、自分はソウという個人なんだよと正直に名乗らせてあげた方が良かったのではないかと。




 そうならなかった以上、たらればの話に過ぎないですし、考えて悔やんだところで意味はないのかもしれませんけれど。はっきり「兄ではありません」と名乗ることでフウ君が反発する可能性だってありえるんですし。






「……カイン……?」


 約束した通り、コウ君はすぐに交代しました。自分が移動した覚えがないのに王都ペルノにいて、しかもカイン君が床に伏せっている状況に戸惑っています。




「最後に会いに来てくれたんだろ? ありがとな」


「ああ……そう、なのかな」


 コウ君とカイン君の交わした会話を知らないので、とりあえず深く考えるのはやめにして、目の前のカイン君の相手に集中することにします。




「体、悪いのか?」


「見りゃわかるだろー? 俺だってもうジジイだよ、歳とらないおまえらと違うんだから。人生五十年って言われてるんだし、長生き出来た方だよ」




「……自然なことなんだけど、やっぱりカインがいなくなると思うと寂しいな……」


 カイン君を喪えば、コウ君の事情を知る人間の、それも対等の友人はいなくなります。そしてこれから新たにそうした友人を作るのは不可能だとコウ君もわかっています。




「……来世でまた縁があったら、よろしく頼むわ……」


 コウ君の作る世界というのに彼も絡んでいるだろうとカイン君はお見通しで、あえてお別れにそんな言葉を選びました。






 それからしばらく経ってカイン君が亡くなるまでコウ君は看取り、没後に必要な諸手続きも引き受けました。カイン君は結婚しない自由な生活を選びましたから、それを頼む家族の当てがありませんでした。


 自由を選んだというのも表向きの建前で、自分が結婚し子供を残すとお姉さんの相続に影響しそうであえて結婚を避けたというのが実際だったりします。自由だって悪いもんじゃないしそっちでいいや、というのがカイン君の人生の選択でした。








「カイン・リークイッドが死んだ? そうか。冥福を祈ろう」


「……それだけ? パー様は淡泊だな」


「そうですよパー様、冷たくないですか?」


「……確かに一度はその名で呼んで良しと許可したが、このように悪用するなら撤回しようか」




 王立軍の皆様がパー様と親しみを込めて呼んでいるので、せっかくだから私達もそう呼んでもいいですかとお願いしたら不承不承、了解いただけたのです。撤回されたら悲しいのでコウ君と私でそろって「ごめんなさい、もうしません」と頭を下げます。




「彼奴とは仕事上で多少関わりの合った程度。退役して何年も経ってそれ以来顔も見ていない。それくらいの訃報でいちいち悲嘆していたら身が持たないのだよ」


 私達もすぐ慣れるし、慣れないなら苦労を重ねるだろうとパー様は言いますが、そんなものでしょうか。






 最初にお会いして数十年。王都に寄った折にはパー様のもとへ顔を出していますが、いつお会いしても暮らしぶりは変わりません。私達が訪ねたからと言って読みかけの本から顔を離さず会話を続けることもしばしば。




 王立軍におけるパー様の立場は顧問です。時には千里眼を用いて対抗勢力の情勢を盗み見て、軍部に助言することもあります。大陸軍のシーちゃんもそうですが、軍において神竜が在籍しているというのはそれだけで優位になるのです。




 パー様の趣味の読書のために三大陸の方々から書籍を買い集めるのにかなりお金がかかりますが、必要経費として処理するのも決して高くはありません。




 百年単位でこのような自堕落な暮らしを誰に咎められるでもなく漫喫出来る。パー様の太陽竜様への深い感謝も、この好待遇へ導いてくれたゆえなのでしょうね。

イリサ「明日からの旅は、唯一の、いわゆる『ほのぼの日常回』ってやつですよ!


……唯一と言わず、もっともっとのんびりさせて欲しいんですけどね~」

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