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GRASSBLUE青草日記~終末までの千年間ロード(旅)ファンタジー  作者: ほしのそうこ
夢みるクエス 【Dream dragon Shade=Gio】
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5話③ コウ・ハセザワ

 退院は出来たものの、頭を強く打ったばかりの子供から目を離すのは危険です。いつ、重篤な症状を引き起こすとも限りません。




 一応は自分が引き起こしてしまった事態ではあると反省して、フウ君はしばらくは家から出ず、コウ君の様子を見ることにしました。




 コウ君はというと、せっかく体を借りることになったものの、かつて私達との日々で単独で何かをした経験に乏しく何をしたらいいかわかりません。ゆえに相変わらず、自宅二階の窓から通りを眺めるばかり……。




「フウ」


「なに?」


「もうよるおそいのに、いつもよりそとがあかるい」


 なんで? と疑問を投げられて、フウ君はコウ君の側へ来て、窓の外を眺めます。




「ああ……明日は月に一度のお祭りだから。朝から屋台で稼ぎたいから、夜遅くまで準備しなきゃなんだよ」


「おまつり」




 コウ君の目はあの日目覚めて以来、ずっと「まっくら」で、感情がうかがえません。それでも声には大いに好奇心が滲んでいるのを、フウ君は聞き取りました。




 翌朝。朝食の買い物のため二人で外へ出ようとすると、すでにお祭りの屋台は営業開始しています。コウ君はすぐにはドアから出ず、半開きにして顔を外へ出し、右へ左へ視線を忙しく動かします。




「そんなに興味あるなら、朝は屋台で食べる?」


「おまつりのごはんはたかい。ってきいた」


「村に住んでる子供は一品だけ、どこの屋台の料理でも交換出来るようになってる。知ってるだろ?」




 コウ君の分と自分の分、二枚の交換券をお財布から取り出します。……そういや、コウと一緒に祭りを見た記憶がない。ユウにいだったら知ってるのかな、コウの好きな屋台料理……そんなことを切なく思い出していました。




「たこやき、って、なに?」


「生地を丸く焼いて、中にたこっていう……魚? の一部を切って入れてあるやつ」


「たこ?」


 フウ君の説明は不正確ですが、お子様ですから仕方ないです。私達の生きていた時代は世界はひとつの陸続きで、現在のように海の幸が多くの町で親しまれるようにはなっていませんでした。




「これにする?」


「うん」


「じゃー、おばさん。これお願いします」


 交換券を渡します。フウ君は屋台の女性と知り合いのようです。同じ村の住人ですからね。


「あいよー、お待たせ! コウちゃん元気になったのかい? 良かったねぇ」


「ありがとーございます」


 コウ君はゆるりと頭を下げました。




「あらあら……」


 どうやら女性は、コウ君からの返事を期待していたわけではなかったみたいです。意外そうな目でしげしげとコウ君を眺めまわします。それでも大人らしく、なんだか別の子みたいねぇ、などとは口に出さず済ませました。






 屋台のすぐ横に、買ってくれた人のために二脚のイスが置かれていて、ふたりはそこに座ってたこ焼きを食べることにしました。


 屋台の方は出来立てほやほやのたこ焼きを渡してくれたみたいで、包み紙は熱くて持つのが大変なくらいでした。




「そういや、肩。痛くないの?」


「いたくないけど、うまくうごかない」




 ……おれのせいでこうなったんだし、仕方ない。密かに胸を痛めながら、フウ君はたこ焼きは自分が持って、コウ君に食べさせてあげることにしました。自分のたこ焼きが冷めてしまうのは諦めて。




 手に伝わる熱に眉をしかめながら包み紙を解きますと、その瞬間には熱気が立ち上ります。たこ焼きは一口で食べるには大きすぎて、割箸で半分に割るとさらに凝縮した霞が目に見えます。




「気をつけろよ。すっげー熱いから」


「うん……ほわぁ~、あふ、あつ」




 忠告してもらっていてもなお、口の中に入ったたこ焼きの熱さは想像を超えていました。コウ君は目を閉じてちょっと混乱しながら、舌やら口やら必死に動かします。少しでも冷まさないと味わうどころではないと。




「でも……あつあつっておいしい」


「舌、やけどしただろ?」


「べろ? へんなかんじになった。でも、またたべたい」


 どうやら病みつきになってしまう美味しさだったみたいです。私達は、やけどしそうに熱々なものをそーちゃんに食べさせたことがなかったから、未知との遭遇って感じだったのかもしれませんね。






 金魚すくいの屋台の横に通りかかると、コウ君が目の色を変えました……まっくらなのは相変わらずなのでもちろんそういう意味ではなく。水槽を埋め尽くさんばかりの小さな赤い金魚の群れの動きにくぎ付けになっています。




 私達の時代からすでに三百年以上経っています。当時は宗教的な儀式で用いられる子亀の飼育が盛んで、お祭りでも子亀すくいが人気でした。現在は遊戯用の小魚の養殖が進んで、このような屋台に進化したのだそうです。




「やってみよっか。家に魚でもいれば、ちょっとはさびしくなくなるかもしんないし……」


 家にお魚の一匹でもいれば、それを眺めたりお世話したりで、日々の孤独が紛れるかもしれない。フウ君はそんな風に考えていました。身内を次々と亡くしてきた心の傷がいよいよ深刻になっている気がします。が、




「さびしい?」


「コウはさびしくないの? ユウにい、も……親もいなくて」


「さびしくないよ。フウがいるから」


「……そう」


「なんか、へん?」


「変じゃない……」




 というわけでふたりでお金を払って金魚すくいをしてみたのですが、コウ君は肩が全快していない……それどころか、見た目は八歳でも中の子は四歳ですから当然すくえませんでした。フウ君が辛うじて一匹だけすくって連れ帰り、とりあえずバケツの中へ。




 餌だけはカイン君の宿でお客さんの目を楽しませるために飼育しているお魚のものを分けてもらいましたが、ちゃんとした水槽は明日改めて探しに行こうということになりました。コウ君の通院もありますし、当日に全て済ませるのは難しいという判断です。






 決して、バケツの中に一日放置したからというのが原因ではありません。翌朝には金魚は死んでしまっていました。


 そもそも金魚すくいの金魚というのは、連れ帰ってもすぐ死んでしまうのが大半で。飼育し続けられるかどうかはその金魚が強い個体か否かという、運の要素が大きいものだったのです。所詮はお祭りの遊びということで、すぐに死んでしまっても文句をつける人も少なく……。そういう意味では、連れ帰って長生きさせられる子亀すくいの方が道義的には正しかったのではないかしらと思ってしまいます。




「フウ、さかなしんじゃって、さびしい?」


「……さびしくないよ」




 自宅の裏の森に、ふたりで金魚を埋めました。といっても不自由な体のコウ君はついていって見ているだけで、金魚を運ぶのも土を掘るのも埋めるのも、全てフウ君がしました。


 でも、小魚とはいえふたりで迎えようと決めた命を、ふたりで弔った。その経験は「コウ君ではないコウ君」とフウ君の心の距離を近づけてくれたのではないかと、私は思いました。








 毎晩ではありませんが、コウ君が地上で眠ると、そーちゃんが影の世界で目覚めることがあります。




「あ、コウ」


「どう? そっちはうまくやってる?」


「うん……コウ、めのしたがへんないろになってる」




 体感時間としては久しぶりに会ったと思ったら、前に会った時とコウ君の人相が変わっている気がする。そう思ってそーちゃんは指摘しました。疲れ目でしょぼしょぼしている上に、隈がくっきり浮いているのです。




 コウ君は無言で、右手の人差し指を左目の隈のあたりにあてがい、すっと右に流します。


「はい、これで問題なし」


 そーちゃんの肌の色をきれいに見せかけている幻と同じような処置を、自分の顔にも施します。見えなくなったからって問題がなくなるわけがないのですが、幼いそーちゃんにはわかりません。もとにもどった、と頷くだけです。




「フウ……とは、仲良く出来てる?」


 一応、確認だけはしておくことにしたものの。自分が上手くやれなかったことを年下の……厳密にはそーちゃんが存在して三百年になるのだから、年下といえるのか曖昧ですが……そーちゃんに求めるのは都合が良すぎるなぁと自問自答してしまうコウ君です。




「きのう、いっしょにおまつりいった。たのしかった」


「なら、大丈夫そうかな」


「でもフウって、コウがいってたのとなんかちがうかんじする」


「違う?」


「コウは、フウがコウのこときらいっていってたけど……」




 なんとなくだけど、本当のコウ君に会いたがってる気がする。そーちゃんはそう思うのですが、幼さゆえに言葉で表現しきれません。そもそもそーちゃんは実感として、コウ君の中にいるのがコウ君でないとフウ君……それだけでなく村の人達からもバレバレなのがわかっていませんから。








「フ~ウ~」


「なんだよぉ……まだねむい~」


 翌朝目覚めて、思いついたことがあって、さっそく試したくなって。自分だけではわからないことなのでまだ眠っているフウ君を揺すって起こしました。




「かみ、と、かくもの」


「は?」


「ほしいんだけど、どこにある?」




 さすがに一般家庭に、紙も筆もひとつもないということはありえなく、フウ君は居間の引き出しから使っていない筆記帳を出してあげます。




 まだ朝ご飯にも早い時間だったので寝足りなかったフウ君は二度寝してしまい、コウ君は居間の食卓でひとり、書きものを始めます。




 起き出してきたフウ君は先ほどは寝ぼけていたのか、自分がそれらを出してあげたことをすっかり忘れていました。




「何書いてるの?」


「にっき」


「えぇ~……?」




 これまた、本来のコウ君がしたことのないような行動を示されて、頭を抱えてしまうフウ君です。




「そんなの、何のために書くの……?」


「わすれたくないことと、あんまりあえないひとにつたえたいことをかくんだって」




 かつて私は、そーちゃんに日記を書くことをお願いしていました。いつかそーちゃんが本当の家族に再会出来た時にお見せしたかったのと、言葉を話せなかったそーちゃんの語彙、表現力を増やす助けになればと思ったからです。




 話せる体を手に入れたそーちゃんがある程度普通に話せているのも、その習慣が実を結んだのではないかなぁと私は思うのです。やっぱりお願いしておいて良かったです!




「日記書いてるってことは……おれは見ない方がいいよね」


「なんで? みられたくないことなんか、かかないよ」


 気を使って部屋を出ようとしたフウ君でしたが、あっさり否定されます。フウ君の考える日記というのは、人知れず書くもので勝手に見たら失礼。フウ君に限らずそれが一般的感覚かもしれません。




 でもそーちゃんは、普段は私に、いつかは家族に見せるために書いていたもの。感覚が全く違うのです。




 別に見たかったわけではないのですが、書き終えた直後だったのもあってはいどうぞ、とコウ君に手渡されてしまい。渋々それを読みました。




『フウとおまつりいった。




たこやきをたべたらあつすぎてびっくりした。


でもおいしかった。




はじめてきんぎょすくいをした。すぐにかみがやぶれていっぴきもとれなかった。




たのしかった』






 まぁ、実質的に四歳児なので、こんな感じです。本当に大切なこと、忘れたくないこと、伝えたいことを書けばいいですよと教えていたので、金魚が死んでしまったのは書かなかったようです。




「楽しかったんだ……あれで」


 表情の変化が乏しすぎて、半信半疑でした。楽しんでいそうだけど、実際どうなのかはっきりしなくて、不安になっていたのです。




「フウは? たのしくなかった?」


 本音を言えば、村の友達とワイワイ大騒ぎしながら見るお祭りの方が、楽しい。残酷だけどそんなものです。




 でも……今までコウ君と一緒にお祭りで遊んだ記憶もなく。コウ君が何を楽しむ性格なのかわからず手探りの中、一緒に歩いて。


 表情にぜーんぜん出ていなかったとはいえ、本人はどうやら楽しんでいたらしいとわかって……。




「楽しいっていうより、なんか……嬉しかった」


「ふーん?」


 こういう場面で感じる嬉しいの意味がコウ君にはさっぱりわかりませんでしたが、深く考える間もなく。




「おなかすいたー。パンかいにいこー」


 中身の年齢が逆転してしまっても、お財布の管理は以前のままです。コウ君はお財布を胸元にしまって、フウ君の手を繋いでさっさと歩き出してしまいました。

イリサ「私自身は旅を出来ませんが、自分の好きな人達を見守れるのはなかなか幸せですね。


それが楽しいのは私だけかもしれませんけれど……」

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