98泊目 過去からの脱却
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泣き疲れた俺たちはどちらからともなく顔を見合わせ、笑う。
「ねぇ、これを見て」
ミュウの手には、そしてついさっきまで俺の額にかざされていたペンダントがあった。
それを見ていると、何故か暖かい気持ちになる。
「このペンダントにはね、おばさまの魔力が込められているの。魔力の暴走を抑えて、鎮静化してくれる効能があるんだ。いつかユートに何かあった時には助けてあげてね、って言われて私が譲り受けたの。おばさまはユートの中にある強大な魔力が暴走してしまうことを恐れていたんだ。そして、それを見越してユートじゃなくてアタシに渡してくれたんだよ。えへへ、やっぱりおばさまは凄いね、なんでもお見通しじゃん」
「そう……だったのか……」
突然蘇った記憶と、そして今初めて知らされる事実に驚きはしたものの、心は穏やかだった。今まで自分の中で抑え込んでいたネガティブな気持ちが、全て許されたような、そんな気分だ。
辛い思い出を残しておきたくないから記憶を消してくれだなんて、我ながら甘えたことを言ったもんだなぁ、と苦笑をすると、ミュウは仕方ないよ、あれは辛い経験だったもの。といって俺と同じように笑った。
「でも、ミュウとニュウは俺のために辛い記憶を持ちながらもずっと笑っていてくれたんだよな、ありがとう」
「それが私とニュウがおばさまとおじさまから受け継いだ気持ちだと思ってるから。おばさまとおじさまのために……ううん、アタシ自身のためにも、ユートを守っていくって決めたんだ」
「俺、今まで魔法に対して苦手意識を持ち続けていたけど、これからは俺と……そしてミュウとニュウを守ってくれた魔法とも共存していこうと思うんだ。いつまでも過去に縛られてちゃいけないよな」
一度大きく深呼吸をして伸びると、俺はなんだか生まれ変わったような清々しい気持ちでいっぱいだった。
「あ〜あ、それにしても、アタシとニュウの魔法もまだまだだな〜。ちょっとしたきっかけですぐ記憶が戻っちゃうんだもん〜。ここ暫くは武器ばっかり握ってたけど、またニュウと一緒に魔法の勉強でもしてみようかな? 魔法の力に目覚めたユートもいるわけだし、三人でまたあの頃みたいに魔法を学んでみない?」
「うん、それも良いな! 俺の魔法もいつか誰かの命を救うことができるのかなぁ……」
「なーに言ってるの!まさについさっき、アタシたちゲストハウスの仲間たちの命を救ってくれたじゃない!突然転送の魔法陣とかいう大魔法を見せられてびっくりしちゃったよ〜!」
「あれは正直自分でもビビったなぁ……。自分が魔法を使えるなんて思ってもみなかったからな。禁魔も徹底してたし……なんだか自分が魔法を使えるようになった途端禁魔を解く、ってのもダサくないか?」
「いやいやぁ、そんなん気にしなくてもダイジョーブでしょ!むしろみんな、特にニュウなんかは喜ぶと思うよ。今だから言うけど、あの子たまに隠れてこっそり魔法使ってたし?」
「え?なんだそりゃ?聞いてないぞ……!!ゲストハウス規約違反だっ!!!」
さっきまで死闘を繰り広げていたとは思えないような緩やかな時の流れに、心地良い時間酔いをしているみたいだ。
俺はまだ少し痛む拳を見つめ、治癒魔法も使えたりするのかな?と、見様見真似で治癒魔法の練習をしてみることにした。




