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91泊目 抗えない魅力

 クロエの部屋を飛び出すと、その隣にはオイゲンの部屋がある。ノックも無しにドアを勢いよく開くと、オイゲンもまたサキュバスと奮闘をしていた。


「おおっ! 坊ちゃん、いいところに! コイツをどうにかしてくれ!! 俺様だけじゃこの魅力に抗うことができない……!!」


 そう言いながらサキュバスに組み敷かれているオイゲン。絶体絶命のピンチの割には、ものすごく嬉しそうな表情を浮かべている。


「おい! これ以上はもうだめだっ! 戻って来れなくなっちまう、辞めてくれ!!」


 叫びは悲痛なものだが、一切抵抗を見せないオイゲン。

 そんなオイゲンに呆れながらも、俺は大声で挑発をする。


「来いよサキュバス! 俺が相手だ!!」


「あら、なになに? まだまだお子ちゃまじゃないの。ま、こういうガキの方が精力過多だったりするのよね。お望み通り、全部吸い取ってあ・げ・る♡」


 その瞬間、サキュバスの顔が目前にあった。なんだコイツ……瞬間移動ができるのか?


「ねぇ、僕。こういうのはじめて? 大丈夫、優しくしてあげるから安心してていいのよ。でも、おっきい声は興醒めしちゃうから静かにね」


 俺の唇に指を当てて微笑む目の前の女は、あまりにも魅力的で、一瞬全てを許してしまいそうになった。これは、オイゲンの気持ちもわかってしまうぜ……。

 女を見つめながらぼーっとしていると、上半身のパジャマがめくられ、生暖かく細い指が肌をなぞった。


「……っ!!」


 目を固く閉じると、ドカッという鈍い音が耳に響いた。

 恐る恐る目を開くと、そこには女の姿は無く、オイゲンが立っているだけだった。


「おいおい坊ちゃん、助けてくれっつったのはこっちだぞ? ま、気持ちはわからんではないがな!」


 ガッハッハ、と腕を組んで笑うオイゲン。そうか、オイゲンが助けてくれたのか、危なかった……!


「いやぁ、いくら魔物とはいえ、女性に蹴りを入れるのは心が痛むな……。すぐ光になって消えちまったから良いものの、死体なんかを見ちまったら腹に悪ぃぜ……」


 足を鳴らしながらため息をつくオイゲン。助けに来たつもりが、助けられてしまったな。


「はぁ……なんなんだろうな、サキュバスのあの抗えない魅力は……」


「こればっかりは仕方ねえよ坊ちゃん。男がサキュバスに対抗しようなんざ、そんじょそこらの精神力じゃ無理だ」


「だよな……。サキュバスを追い払った今でさえ、少しくらいなら大丈夫だったんじゃないか? っていう気持ちが抜けねぇ」


「俺も正直、そう思っている。が、考えちゃだめだぜ。一回身体をゆるしたら最後、廃人になっちまう、って自分に言い聞かせようや」


「だな。……っと、こうしちゃいれねぇ、エルの様子を見に行かないとだ!」


「おう、俺も一緒にいくぜ!」


 こうして俺たちは、無事サキュバスの魔の手から逃れることができた安堵と、少しの後悔と共に部屋を後にした。

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