89泊目 二面性
「おい、舐めてんのか? クソガキ」
そう吐き捨てる女との顔の距離は、吐息がかかるくらいだ。
全力で抵抗をして、あまりの力の強さに女の身体の下から逃げられる気配は全くない。
「あのなぁ、一族の宝を持ち出した時点でもう許されることじゃねぇんだよ。死刑。極刑。あの世行き決定」
さっきまでとは打って変わった女の雰囲気と、隠すことを放棄した殺気で部屋は重たすぎる空気が充満している。
その空気に圧倒されて固まっていると、女が動き出す。
「うふふ、じゃあ、手始めの精気をいただいちゃおうかしら〜。いただきま〜す♡」
そしてパジャマのズボンに手をかけられた瞬間、ようやく身体が動くようになった。
その隙を見て、俺は馬乗りになっている女を突き飛ばす!
「きゃぁっ! 女の子に暴力を振るうなんて酷いわ〜!! そんなことしちゃう悪い子には……お仕置きが必要ダナァ!? ぶっ殺してやるよ!」
ベッドから飛び起きた俺は、そのままドアへと走る! まずは仲間たちの無事を確認しなければ……!!
ミュウの部屋のドアを乱暴に開けると、そこにはミュウ、ニュウ、そして4体のサキュバスがいた。
「ミュウ、ニュウ、無事か!?」
「ユートぉ! なんなのこれぇ!!」
「ユート様、生きてらっしゃいましたの?てっきり綺麗なお姉さんに屈してしまったのかと思いましたわ」
2人はニュウが張った結界陣の中で、お互いの身を守りあっていた。
2人ともボロボロになった下着姿のため、どこに目を向けていいのかわからないが、そんなことを言っている場合ではない……!!
俺は綺麗に手入れされているミュウの戦斧を見つけ、それを手に取る。
行手を阻むサキュバスたちを蹴り上げ、ミュウの元へと走る!
戦斧を受け取ったミュウは、下着姿のままサキュバスたちに向かって斧を振り上げた!
「かかってきなさい! 色情狂共!!」
サキュバスたちも魔法で結界を張りつつ応戦をするが、元々の魔力がそこまで高くないのか、こちら側が大きなダメージを受けることもなさそうだ。
斧がサキュバスの身体へと振り下ろされると、その身体は魔法の粒子となって消えた。
この調子なら、ニュウの結界の中から安全に撃退ができそうだ。
「2人とも! ここは任せて大丈夫か!?」
「うんっ! ばっちりだよ! この斧さえあれば、こいつら全員余裕で倒せるっ!!」
「ええ。ユート様は、他の部屋の様子確認をお願いしますわ!」
サキュバスと戦う2人にその場を任せ、俺はクロエの部屋へと向かった。




