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8泊目 ねこはかわいい

 騒がしい食事を終えると、ミュウニュウ姉妹は洗い物、クロエは夜のお祈り、オイゲンは酒場へと酒盛りへとそれぞれ向かった。

 エルはまた談話室へと戻り、本を読んでいるようだ。

 俺はロビーのカウンターでお金の計算をしよう……と思いながらなかなかやる気が出ずにボーッとしているところだ。


「お金の計算って、どうしてこう面倒なんだろうな〜。ゲストハウス経営の中でも大事な部分ってのはわかるけど、全く性に合わないんだよな〜」


 木製の椅子に腰掛けながら、カウンターに突っ伏していると、ユキチさんがカウンターの上に飛び乗ってきた。


「ユキチさんじゃないか! 今日は姿をあまり見なかったけど、どこに行ってたんですか? 相変わらず神出鬼没ですねえ」


 顎の下を撫でてやると、プニャー、という間の抜けた鼻息なんだか鳴き声なんだかわからない声を出し、腕に額を擦り付けてくる。

 今日のユキチさんは、ニュウから余ったムチョ=ムッチョの脚肉をもらい、上機嫌なようだ。


「んんんんんん! 可愛い! あまりにも可愛い! 可愛すぎて奥歯を噛み締めすぎて奥歯が痛くなってきましたよユキチさん!!!」


 ユキチさんを撫でる手につい力が入り、同時にグッと奥歯を噛み締める。

 さっきまでは気持ち良さそうに撫でられていたユキチさんだが、すぐに嫌がって俺の指をひと噛みしてカウンターから飛び降りてしまった。

 噛まれても可愛い、ひっかかれても可愛い、無視されても可愛い。

 全く猫という生き物は、人間がずっと崇めてきただけあって完璧なキャラデザの生物だ。

 キャラデザだけに初期ステータスを振りすぎて、他のステータスは全体的に低いことは否めない。……だが、そんなことはどうでも良いのだ。可愛ければ何だって良いのだ。誰が何を言おうと、可愛いは正義なのだ!!


 ユキチさんがロビーから走り去った後、そこにはカウンター上の書類に向き合う俺だけが残された。


「今日はムチョ=ムッチョを買って奮発してしまったし、ここ数週間は宿泊の新規予約もないし、経営状況は安定はしているけど、もっと蓄えの保険がほしいなあ」


 衛兵時代のように街の酒場にクエストでも受けに行こうか、逆にゲストハウスの宣伝をするために宣伝クエストの募集でもしようか、色々とやり方はあるなあ、と鉛筆を回しながらぼんやりと考える。

 様々なお金を生み出す方法が頭の中に浮かんでは消え、これじゃない、ああじゃない、と脳内で一人議論を繰り返す。このままだと知恵熱が出てしまいそうだ。


「ーーうん、今日はもうこれくらいでいいかな」


 そうして頭に浮かんだいくつかの経営目標と資金集めについて簡単にまとめ、大きく伸びをした。


「久しぶりに頭も使ったことだし、今日はもう風呂でも入ってスッキリするか」


 ユキチハウスは男湯と女湯、2つの大浴場がある。

 どちらの浴場も広く、内湯はもちろん開放的な露天風呂まで完備だ。

 東方の国で愛されている"温泉"という療養施設を真似たもので、風呂に使用しているお湯もまた、ハーブを使用して健康促進の効能を高めたものを使っている。

 この大浴場という施設はアスガレッドでも珍しく、ユキチハウスの自慢でもある。

 遠路はるばる来てくれた旅人たちも、旅の疲れが取れる、と大絶賛してくれていて、ユキチハウスの大浴場は様々な国のガイドブックにも掲載されている。

 今日もクロエが採ってきたハーブをお湯に入れてくれているはずだ。

 日替わりで変わるハーブも、毎回入浴時の効能が違う。疲労回復から傷口に効くものはもちろん、ステータスの最大値の上昇効果がある当たり日があることも。

 オイゲンの料理といい、クロエのハーブ風呂といい、ユキチハウスは運要素が強いコンテンツが多いな……?


「今日のお湯もどんな効能があるのか楽しみだな〜」


 と、鼻歌混じりに上機嫌で男湯の脱衣所へと向かう。


 脱衣所の入り口にたどり着くと、室内履きがひとつ置いてある。

 今日は外部のお客様もいれてないから、先客といえばオイゲン以外いない。

 オイゲンはいつも深夜にひとり、貸切状態で大声で歌いながら入ってることが多いみたいだから珍しいなあ。

 久々に男同士の裸の付き合いってやつでもしますかね!

 と、靴を脱いで脱衣所の暖簾をくぐったその時、俺は衝撃的な光景を目にした。

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