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88泊目 サキュバス

 サキュバス。その名前を聞いて俺は震え上がった。

 サキュバスという種族は淫魔と呼ばれる種族で、人間や動物の精気を自分自身の力として吸い取ることで有名だ。

 ターゲットが寝ている間に部屋へと忍びこみ、淫夢を見させる。そしてそのままあんなことやこんなことをなすがままにされ、精気を全て吸い取られてしまうのだ。

 男の夢だー! なんて言って、自らサキュバスへと挑む馬鹿なヤツも後をたたないらしいが、精気を全て失ったが最後、その後は廃人としての余生を送らなければならないという……。

 正直言ってあんなことやこんなことは羨ましいが、それで廃人となってしまっては意味がない。

 低級悪魔といえども、かなり恐ろしい存在なのだ。

 ……そんなサキュバスが今、目の前にいる。


「すまんが、精気を吸い取る目的なら他のところへ行ってくれ。アン=レッド通りとかどうだ? ギラギラした男たちが山のようにいるぞ。少しずつ精気を頂戴すれば腹もいっぱいになるだろ」


 目の前に物凄く魅力的で蠱惑的な女がいるのはわかるんだが、長いダンジョン探索で今は身体の疲労感も激しい。

 この不思議な状況から解放されて、一刻も早く寝たい……!!


「ごめんなさいねぇ、そんなわけにはいかないのよ〜。多分、他の仲間たちはもうこのゲストハウスのかわい子ちゃんたちを全員、食べちゃったんじゃないかしらぁ?」


 その言葉を聞いて、脳が覚醒する。俺は寝落ちしそうになっていた身体を即座に起こし、目の前の女に詰め寄る。


「仲間? 全員食べた? どういうことだ!?」


「ちょっとぉ、そんな怖い顔しないでよ〜。もとはといえば、貴方たちが悪いのよ〜?」


「俺たちが、悪い……?」


「そうよぉ〜。私たちの大事な卵、貴方たちが勝手に持ち出したんでしょう?」


「そんな記憶はない! なんだよ卵って……」


 と、言いかけた瞬間、脳裏にひとつの心当たりが浮かぶ。


「もしかして、ヴァロールの……」


「ぴんぽ〜ん。大正解よ〜。貴方たち、サキュバスにとって命よりも大事な卵を持ってっちゃうんだもの。みんなの可愛い可愛い仔が産まれる予定なんだから、困っちゃうわ〜」


「いや、だってあれはヴァロールの祭壇に……」


「もう、ぜ〜んぶ説明してあげないとわからないのねぇ。私たちサキュバスは、卵が生まれたら強い魔物の巣に預ける……っていうか、孵化直前まで卵を置かせてもらうの〜。私たちの力で守り抜くよりも、強い魔物を利用した方が安心安全なのよ〜」


「そういうことならわかった。卵は返す。だから卵と一緒にそのままお前も帰ってくれ」


 そう言ってベッドから立ち上がろうとした時ーーーー


「う、わぁっ!!」


 突如腕を掴まれ、簡単に組み敷かれてしまった。

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