72泊目 記憶の混同
「……記憶の混同はね、」
「ん?」
「記憶の混同は、魔法暴走が起きた時にたまに起きるの。記憶喪失になっちゃったり、他の人の魔力に当てられて、その人の記憶が自分のものになっちゃったり……。すっごい危険な状態だから、そうなっちゃわないようにニュウは私にストッパーとしての役割をお願いしてきたのね」
それでこれが役に立つの、とミュウが見せてきたのはさっきまでニュウの額にかざされていたペンダントだ。
「これはとある偉大な魔法使い様から譲り受けた大事なペンダントなんだあ。魔法が暴走しちゃった時に魔力の氾濫をこの石が吸収してくれるから、何かあった時のことを考えてアタシもミュウも、お守りとしてずっと持ち歩いてるんだよ」
「そういや、ニュウの魔法暴走ってやつはこう、魔力が外に溢れて暴発する……いわゆる一般的な魔法暴走とは違ったよな……? どうしてニュウ自身がダメージを負っているんだ?」
「それは多分、ニュウ自身が魔力を外へと出すことに嫌な気持ちを持っている、からじゃないかな。どうしたって魔法暴走を起こしたくない、私たちを巻き込みたくない……。だからこそ、壊れちゃうなら自分だけが、って思ったんだと思う」
「そんな……」
そんなことを考えてたのか、と言おうとして俺は涙と同時に言葉を飲み込んだ。
ニュウはこの小さな身体の中に放出できない魔力を抱えていたんだ。
何も気づいてやれなかったのが悔しくて、情けなくて、何も言えなくなってしまう。
「ニュウさんは、本当に強くてカッコいい人です」
隣で話を聞いていたエルも、ポツリと独り言のように言葉を漏らす。
その目には、大粒の涙が溜まっていた。




