61泊目 いざ、最深部へ!
「祭壇を守っているヴァロールの数は……いち、にい……三体ですわね。体躯もそこまで大きい個体ではないみたいですし、これなら僕たちでもなんとか倒せそうですわね」
祭壇には、三体のヴァロールと、その後ろに堂々と鎮座する巨大な祭壇。
祭壇には大小様々のまじない道具が飾られており、そこにはもちろん竜の牙も置かれていた。
中央には紫色に淡く発光する球体と、黄金のゴブレットが置かれていた。
「あ! あれです! 私がずっとずっと探していたもの…!!」
エルは祭壇の中央を指差し、小声で言う、
嬉しさを抑えきれないような表情で、見ていると今にも飛び出していきそうなエルを制し、俺は言った。
「これがここでの最後の決戦だ。それぞれ武器や道具の確認をしたら、全員で一斉に叩こう。ヴァロールは三体、落ち着いていけば問題なく殲滅できるはずだ」
俺の声に全員が頷き、武器を静かに構える。
そして俺の合図と共にーーーー
全員がヴァロールに向かって攻撃を仕掛ける!
ミュウはヴァロールの巨体を足場に駆け上がり、戦斧を振り下ろす。
ヴァロールの皮膚は厚く肉を断ち切ることはできないが、脳天に重い攻撃を入れたことでヴァロールは後ろによろめいた。
そのタイミングですかさずニュウの双剣がヴァロールの目玉を斬りつける!
「グ……ゴァァァァァァ…!!」
目玉にダメージを負って辺りが見えなくなっているヴァロールは、暴れ回って手を振り回す。
その反動と衝撃で、台座にもダメージが広がる。
ヴァロールの持っていた棍棒が台座に当たり、音を立ててまじない道具が床へと散らばった。
2人の連携を確認しながら、こちらも二体目のヴァロールを引きつける。
オイゲンが急所を狙って矢を放つと、見事に命中!
数歩先にいるオイゲンに狙いを定めたヴァロールは、鈍い足取りでオイゲンの方向へと向かおうとする。
「お前は……こっちが相手だ!!」
こちらに背を向けたヴァロールの膝裏に、最大値まで切れ味を上げた剣を突き刺す!
ヴァロールの正面に立つオイゲンも、顔面を狙って何度も矢を撃ち込んでいる。
反撃する隙を一切与えずに次々と攻撃を叩き込む。
ヴァロールに弱りが見え、床に倒れ込んできたところで、一気に剣を振り下ろし、首筋に剣を差し込む!
するとヴァロールは、小さくギャァ! という声を発し、息絶えた。
呼吸を整えつつミュウとニュウの方を確認すると、2人ももう討伐を終えたようだ。
ヴァロールの骸の前で、ニュウがミュウに対して回復魔法をかけているのが見える。
安心したのも束の間、突然背後から大きな爆発音が聞こえてきた。
「やりました! 一撃必中、一発命中です!!」
激しい耳鳴りと爆風に襲われながら耳に入ってきたのは、エルの声だった。
ゲホゲホと激しく咳き込みながら声がした方向を見ると、煙の途切れ目から仁王立ちをしているエル、そしてその下には、天を仰いで倒れているヴァロールの姿があった。
「エル! ひとりでこいつを始末したのか!?」
小さな身体が巨体を踏みつけている、その異様な光景に思わず声が出る。
「はい! ユートさん、私やりました! やっぱりこの調合比率は間違ってなかったんです! 火薬と魔石の配合もうまく行ったし、きちんと中和もできていて反転が起きなかったのもあの分量だと奇跡的なことなのに! ということは、今度は氷の爆弾でも火属性のものがつくれる……? いや仮にそうなったとしたらクロノスアイスからも成分を……」
エルはヴァロールの上に立ったまま、顎に手を当てて考え事を始めてしまった。
こうなると戻ってくるまでに時間がかかってしまうから、しばらく好きに思慮の森にいさせてやろう。




