60泊目 儀式によって生まれるは思念
「ここの階層もまぁまぁ広そうだなあ」
小部屋から一歩踏み出すと、そこにはかなり広い空間が広がっていた。
途中に生えている薬草や薬の材料となる洞窟苔、月光花などを採取しつつ、魔物を倒しながら奥へと進む。
もう魔物を食べる必要はない、とわかってはいるのだが、魔物を倒すごとにコイツはどんな味がするんだろう、と考えてしまう。
片手剣の扱いのコツも身体が思い出してきたことで、案外さくさくとダンジョンを踏破できている気がする。
最下層の魔物でも、難なく撃破できているなあ。
これなら、もう少し手応えのあるダンジョンへと挑んでみても良さそうだ。
ゲストハウス業務もやりがいはあるのだが、やはりたまにダンジョンに潜ると身体を戦闘に慣らすこともできるし、思いがけないお宝にも出会えるしで一石二鳥だ。
閑散期にはゲストハウスのメンバーと共にダンジョン探索、なんてのも良いかもしれないな。
そんなことを考えながら歩いていると、前を歩いているオイゲンが何かに気づいたようだ。
「なぁ、これを見てくれ」
そう言ってオイゲンは地面から何かを拾い上げ、こちらに見せてきた。
「これは……竜の牙か? なんだってこんな洞窟の奥地に……」
そう言いかけて、ある事に気がついた。
「もしかして、祭壇が近いのか?」
「その通り、ビンゴだ坊ちゃん。」
オイゲンが指を鳴らして言葉を続ける。
「亜人族にとって竜の牙ってもんは特別なシロモノだ。儀式には欠かせない魔具のうちのひとつだな。もちろんこんな洞窟の奥に竜なんて存在してねぇ。ここに竜の牙が落ちてる理由なんてただひとつ、ヴァロールが落としていったものに違いねぇな。それに、これが儀式で使われた後のモノなら更に好都合だぜ」
そう言ってオイゲンは手に持った竜の牙を火で炙り出した。
すると、薄い煙が洞窟の奥に向かってみるみるうちに伸びていく。
「よっし、思った通り! コイツもビンゴだぜ。儀式によって魔力が込められた竜の牙は、その思念が儀式の場に宿ると言われている。だからこうして炙ってやると、その煙は儀式の場へと帰ろうとするんだ」
「ということはつまり、この煙を辿りさえすれば目的地に辿り着く、ってことだな!? よっし、長いダンジョン探索にも終わりが見えてきたな!」
目的地がわかっているのなら、そこを目指して一直線に行くに限る!
俺たちは武器を力強く握り直し、ダンジョンの最下層、ヴァロールの祭壇へと歩み始めた。




