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4泊目 魔法恐怖症

 ゲストハウスの従業員全員が一階の談話室に集まりテーブルに着くと、それぞれの前に熱いホットチョコレートと形よく切られたクロノスアイスが置かれた。

 席に着くや否や、最初に口を開いたのはミュウだ。


「それでそれで、エルちゃんはさ、どうしてこんななーんにもない、でも魔物だけはウヨウヨ生息しているようなシュトーレンに来たの?」


「えっと……、探し物がありまして、それをどうしても手に入れなければならなくて……」


「おっ? もしかしてトレジャーハンター、とかってやつかい? 若いのにまたロマンをわかってるねぇ! このオイゲン様の武勇伝を聴くか?」


「へ〜、なかなか見所があるやん、僧侶が必要ならいつでもウチに言ってもらって構わんよ〜」


「僕にできることがあれば、何なりとお申し付けください。誠心誠意、おもてなしいたします。」


 短い冬の間はシュトーレンに訪れる旅人も少なく、ゲストハウスも閑散期だ。

 久しぶりの来客に従業員たちはテンションも上がり、矢継ぎ早にエルに言葉を投げかけている。

「あぅあぅあぅ……」と混乱しているエルに苦笑しつつ、話をまとめようと俺は口を開く。


「エル。事前に受け取った書類ではプロフィールに名前、性別、年齢しか書いてなかったが何か理由があるのか? 住所や魔法タイプ、滞在目的などの必須項目も書かれていなかったんだが……」


「それは……、すみません、どうしても話せないんです。皆様にご迷惑はおかけしないので、泊めてくださると嬉しいです……! 魔法学院の冬休みを利用してシュトーレンまで来たのですが、ほかに開いている宿もなくて……。」


「そうだなぁ、冬季はここら辺の宿も全部営業を辞めてしまうもんな…。まぁ仕方がない、こんなに可愛い女の子を外に放り出すわけにもいかないし、是非うちに泊まっていってくれ」


 そう言った瞬間、エルの顔が一瞬曇り、泣きそうな表情になった。泣きたくなるほどに喜んでくれると、こっちも嬉しい。おもてなしにも力が入るというものだ。


 それにしても、魔法だなんてどうしてあんなに危険なものを学ぼうとする人が後を絶たないのだろう。

 テレビをつければ魔法による犯罪や殺人は日常茶飯事、魔法の暴走事故で一地区が瞬時に蒸発したこともある。

 治療魔法を教わっている子供が、その類い稀なる力から異教団にさらわれる事件も頻発している。

 便利なのはわかるけれど、それ以上のリスクに、俺はどうしても怖気付いてしまう。

 父さんと母さんを目の前で亡くした時の絶望を、もう二度と味わいたくはない。


「でも、羨ましいわぁ〜」


 過去の事故の映像が頭に浮かび、ぼーっとしてしまっていた頭が、クロエの声に叩き起こされる。


「ウチ、学校なんて行かずにずっと修道院でスパルタ修行させられてたから、学校ってのに憧れる〜」


 目の前に置かれた最後のクロノスアイスに手を伸ばしながらえへへ、と笑うクロエに、エルの緊張も今となってはどこにも見えない。


「探し物がある、って言ってたけど、結局それってなんなの? この街の名産品か何か? あたしが街案内してあげよっか?」


「いえ、そこまでミュウさんのお手を煩わせるわけにはいかないので。それに、私にも魔法があるので大抵のことは1人でもできます。」


「そっかそっか、エルちゃんは大人だねぇ〜! あたしなんてニュウがいないとなーんもできないよ」


「ミュウは何もできない訳ではなく、やろうとしないだけですわ」


「ミュウ、何なら俺様が料理でも教えてやろうか? 料理は良いぞ、世界が広がるぞ!!」


「あたしは食べる専門だからいいの! めんどくさいこと嫌い〜!」


「ウチも食べる専門やけど、旅してた時はきちんと自分で調理してたわぁ〜。懐かしいなぁ」


 騒がしいゲストハウスの面々を前に、エルは控えめな微笑みを顔に浮かべて、少し困った素振りをしている。


「ほら、皆エルが困っているだろ? 休憩したらそれぞれの仕事につくこと!」


 ミュウの「はぁ〜い」という気が抜けた返事を先頭にして、ゲストハウスの仲間たちはそれぞれの持ち場へと戻っていった。


「では、私もそろそろ部屋で休ませてもらいますね。長旅で少し疲れてしまいました……」


 エルも階段を駆け登っていき、談話室には俺一人が残された。

 さて、俺もそろそろ今晩の食材の買い出しにでも行こうか。

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