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34泊目 オイゲン30分クッキング

 俺は意を決してバッグから短剣を手に取り、マンドラゴラの瞼に切先を立て、そのまま一気に目玉をくり抜いた!

 ズルッ……という嫌な音を立てて、片目は簡単に取れた。


「う、うええ……なんていうか、慣れない作業はキッツイな……」


 顔をしかめながらもう片方の瞳に刃を立てようか迷っていると、オイゲンがうっとりした表情でこちらを見て言う。


「なぁ坊ちゃんよ、シェフにとって未知の食材を扱えるってのは、超貴重かつ、超興奮することなんだ! 絶対にコイツらを美味しくしてやるぜ!」


 ……こういうときのオイゲンには何を言っても聞こえないんだよな。

 こっちもどうにか頑張って下処理を済ますとしますか!


 5体分の目玉をくりぬき、そこに薬草を詰め、葉の部分と根の部分を分ける。

 よし、こんなもんで良いかな。

 こうやってみるとまぁ普通の大根と変わらないなあ、とまじまじとマンドラゴラを見つめる。

 魔物ってのもきちんと食材として下処理をしてしまえば、やっぱり美味しいんじゃないか?

 と、襲い来る空腹からか、魔物料理に期待をしてしまっている自分がいることに苦笑してしまう。

 オイゲンも何やら必死にゴブリンの下処理をしているようで、時々「うおっ!」だとか「なるほど」だとかの独り言が聞こえてくる。


「マンドラゴラの処理は終わったぞ! 次、どうすればいいんだ?」


「どれどれ…。うむ、完璧だ! ここからはメインシェフの出番だ! 任せとけ! 坊ちゃんはこっちの鍋を見ていてくれ」


 灰汁が出たら都度すくっといてな、と付け加え、オイゲンと場所を交代した。

 鍋の中を覗くと、顔を背けたくなるような得体の知れないにおいが渦巻いていて、不安が掻き立てられた。

 灰汁が出たら都度すくえ、とのことだが、オイゲンが目を離した数秒のうちに、鍋の中は灰汁に埋め尽くされている。

 においも今までに嗅いだことのない、異様なものだ……。

 お世辞にも美味しそう、とは言えないようなものができあがろうとしているんだが、大丈夫なのか……?


「オイゲン、そっちの調子はどうだ? こっちはなんか灰汁が出っ放しで取りきれないんだが……」


「ユート坊ちゃん、コイツは大当たりかもしれないぜ。スゲェ漬物ができそうだ!」


 オイゲンは俺がかき混ぜている鍋については一切触れず、大興奮でマンドラゴラの調理を続けている。


「魔力を持っているのか、浸透力がとにかく良いな。漬け込んだ後に時間が必要な野菜の漬物とは違って、液に漬けたら即出来上がる。食べたいと思ったときに作ったらすぐに食べられる漬物……。最高じゃねぇか!!」


 ダメだ。興奮したオイゲンには何を言っても聞こえない。珍しい食材や初めて扱う食材を使う時はいつもこうだ。

 俺は仕方なく、凄い勢いで湧き出す灰汁を捨て続けた。

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