32泊目 不味いかどうかはまず食べてから!
「さて、と。まず前提として、そもそも魔物って食べられるものなんだろうか? 自分で言っておいて何なんだけどさぁ……」
「ああ。食える。俺は古今東西世界各国のレシピ本を読み漁って研究してんだ。その中に魔物の名前もたまに出てくるからな。ま、エルソド地区ではほとんど、というか一切食べる風習はないがな。作物が育たず、牧畜もできねぇ、更に動物も少ないような土地では、魔物が日常的に食べられることもあるみたいだぜ」
「初心者向けの魔物食材、とかってあるのか? 食べ慣れてないものを食うにはなかなかの勇気が必要だからな……」
「そうだなぁ……ここに生息してる魔物なら、まさにさっきも言ったマンドラゴラとか良いんじゃないか? 大根によく似た食感ながら、いい具合の苦味と甘味が混じり合ってて美味しいらしいぞ」
「ふむ。マンドラゴラなら楽に狩れるし、
試してみるか」
食料は全て女性陣に預けているから、こうやって話している今も空腹が止まない。
その空腹が強烈なスパイスになっているためか、なんだって食べられそうな気がしてきたぞ……!
ーーーー
「ふぅ……これくらいあれば結構な量がつくれるんじゃないか?」
そう言う俺の目の前には、狩りたてのマンドラゴラが5体並んでいた。
「そうだな、マンドラゴラはもう十分だと思うんだが、これだけじゃ味気ねぇ気もするな……」
顎の下に手を当ててうーむ、と考え込むオイゲン。
とはいえ、この階層に生息する魔物で食べられそうなのはマンドラゴラだけな気もするんだが……。
マンドラゴラは見た目も大根だと思えば、嫌悪感を抱くようなものでも無いしな!
よく市場で同じような大根が売っているのもよく見る。
ただ、このギョロリとした目は……苦手だ……。
マンドラゴラの目をひとつずつ指で閉じていると、オイゲンが声を出した。
「よっしゃ、ゴブリンでも食うか」
…………????
ゴブリン? ゴブリンって、あのゴブリンか?
人間の膝丈くらいの、二足歩行の、眠たそうな目をしていて毛で覆われている、少し可愛いような気味が悪いような見た目をしている、あのゴブリンなのか!?!?!?
「ゴブリンって……食べられるのか?」
「知らん」
「知らん、って何だそれ! よくわからないが、毒とかあったらどうすんだ!?」
「それなら問題ないぞ! 俺様はいつも食材用の毒消しを持ち歩いてるからな。これは食材に抜群に効くんだ。どんな毒でも一掃できる。毒を持つ鳥で美味しい奴らもいるからな、安心してくれ」
「食材用……って、魔物にも効くのか?」
「もちろん。魔物が持つ毒も大体が生態由来だからトキシンかヴェノムってやつだ。それらに対する効果はもちろんある。まぁちょっと腹壊すくらいはするかもしれねぇけどな!」
ガハハ! と笑うオイゲンの目は、冗談を言う時の目をしていない。
こ、こいつ……本気でゴブリンを料理しようとしている……!!




