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30泊目 おいしいたのしいまものごはん

「……仕方ない、か」


 小さくつぶやいた俺の声に、すぐ後ろを歩いていたオイゲンが気付く。


「お? どうしたんだユート坊っちゃん。パン食うか?あと6切れしかねぇけどな! ガハハ!」


 この状況でなんでそんなに豪快に笑ってられるんだ? と不思議に思いつつ、俺はオイゲンに相談がある、と伝えて耳打ちをした。


「いやぁ坊っちゃんよ、それ、本気で言ってんのかい? うーん……。できなくはねぇと思うが……」


 困ったように唇を歪ませるオイゲン。


「俺たちが無事にこのダンジョンを攻略するには、これしかないと思うんだ。そしてこれはオイゲンにしか頼めない。力を貸して欲しい……!」


 俺の様子が伝わったのか、オイゲンはしょうがねぇなあ、と頭をぽりぽりと掻きながらパーティーメンバー全員に聞こえるような大きな声でこういった。


「お前ら! ご存知の通り、食糧がもう尽きかけている! このままだと全員揃ってまとめ死にだ。そりゃあ困るってんで、ユート坊っちゃんと俺は決めた!」


 そして、息を大きく吸い込み、さらに大きな声で宣言をする!!


「ダンジョンにある食材を使って、飯をつくる!!」


 オイゲンの声がダンジョン内に反響し、周りがしん、と静まり返った。

 数秒の沈黙の後、ミュウが口を開く。


「え? ん? ちょっと待って、よくわからなかったんだけど、ダンジョンにある食材? でご飯?」


「……ダンジョンに食材なんてものは、存在しませんわ」


「すみません。僕、まだダンジョン内でもご飯がぱっと出て来る! みたいな錬金魔法は使えないんですけど……」


 みんなから戸惑いの声が上がる。それも無理はない。ダンジョン内に食糧があるわけがないんだ。そのせいでスタミナ切れで死んでしまう冒険者だって数多くいる。

 だけど少し見方を変えてみれば、ダンジョンにら数多の、そして無限とも思える食糧が沢山あるんだ……!


「食材は、たくさんあるぞ。ほら、例えばあそこだ」


 俺が指を指した場所では、大きな葉を頭につけた大根の足のような魔物がチョコチョコと動き回っている。


「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、何言ってんの!? 冗談はやめてよこんな状況で!」


「ユート様はあまりの空腹に頭がおかしくなってしまったんですわね。あれは魔物。マンドラゴラです」


 ミュウニュウ姉妹の戸惑いもわかる……!

 だが、俺たちに残された道はもうこれしかないんだ……!!

 俺はミュウ、ニュウ、エルに向かってはっきりと言ってやる。


「ああ。食うんだ。マンドラゴラを。魔物を!」


 …………。

 また来たな、この沈黙……!


「はい。やっぱりユートさんは頭がおかしくなっていたんですわね。解散解散、とっとと香炉を目指しますわよ〜」


 クロノスアイスを齧りながら踵を返そうとするニュウを、必死で止める。


「待て、ニュウ! 俺は正常だ、おかしくなってなんかないぞ! まずはお前が落ち着け!」


 と、リュックの中から水を取り出し差し出した。

 いやでも、魔物が……と、二人でぶつぶつ呟きながら青くなっているニュウとミュウ。

 そして物凄く静かにしているエルの方を見ると、俺がさっき指を指したもういないマンドラゴラの方を見たまま、硬直状態になっている!


「おい、エル、大丈夫か?」


 肩をゆさゆさと揺すってやると、パンを持っていたエルがそれを地面に落とし、ハッと顔を上げた。


「すみません、ユートさんの発言を理解することを脳が拒否してフリーズしてました……」


 やっぱりエルもそうか、そうだよな。

 魔物を食べる、なんて聞いたことがない。

 自分でもぶっ飛んだ提案だと分かっているが、このダンジョンを踏破するにはどうしても必要なことなんだ……!


「大丈夫だオマエら、安心しろ。このスーパー料理人、オイゲン様がどんな食材であってもデリシャース! に調理してやっからよ!」


 親指を立てて自信満々に言ってくれるオイゲン。

 やっぱり大人の男、ってのは頼もしいぜ!!

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