18泊目 「旅行の前の準備をしてる時が最高潮に楽しい、ってことあるよねえ」
「わぁ〜! 物凄い量やん〜!!」
食堂のテーブルの上に置かれた装備や食料品を見て、クロエが感嘆の声を上げる。
「ダンジョンに潜る時って、こんなにたくさんのアイテム……に食料が必要なんですか……? 正直、なめてました……」
携帯食料を手に取りながら呟くエルは、不安そうな顔をしている。
「いや、これはな、コイツらがとにかく良く食うからだ……! ダンジョン探索にこのオイゲン様が欠かせない理由でもある。コイツら、料理はからかさダメだからな! 飯が食えず、魔物にやられるより先にくたばっちまうもんな」
「腹は減っては戦はできぬ! 健康的な生活に必要なのは美味しいご飯と十分な睡眠! この二つはうちの従業員にも口酸っぱくいってるからな。食は活力の源だ!」
と、テーブルに並んだものたちを眺めながら満足していると、大きな音で腹の虫が鳴った。
「よし、みんな。明日からはついにダンジョン探索だ。今日は各自準備を怠るな。そして、たっぷり食って、たっぷり寝てくれ!」
その場にいる全員から賛同の声が上がり、オイゲンは
「さてさて、それじゃいっちょ、今日はスタミナがつくものを用意しましょうかね!」
と張り切ってキッチンへと向かった。
「んじゃ、ウチは快適な留守番ができるように明日からの経営事項の確認でもしてくるわぁ〜。あ、チョコレート入ったビンどこ置いたんやっけ〜」
クロエはのんびりとした速度で食品棚を物色しに行ったようだ。
ふたりの背中を見送り、俺、ミュウニュウ、エルは改めて向き合った。
「明日からのダンジョン探索だが、エル、その必要なアイテムがある場所はどこかわかっているのか?」
俺が聞くと、エルは手元に用意した分厚い魔導書を読みながら答えた。
「はい。文献によるとアイテムが眠るのはン=ルゴロの最下層、地下13階です。ヴァロールの祭壇に祀られているのは間違いないようです」
「地下13階!? 結構下層まで潜らないといけないのね……今のあたしたちじゃ一日で踏破するのは無理かなあ」
「ええ、ミュウはすぐ突っ走って全力を出しきっちゃいますから。多分ミュウの体力が持ちませんわ」
「そ、そんなことないもんー! ニュウだって今はレベル下がってるんだから体力だって衰えてるはずだよー!」
「レベル上げをせずに13階を一気に降りきることができるかどうかは確かに不安ですわね……大丈夫かしら」
ミュウニュウ姉妹が不安げに顔を合わせる。
「俺たち皆で力を合わせればどうにだってなるだろ! まずは行ってみないとわからないって!」
不安になっているみんなを鼓舞しながらも、自分自身も少し不安になっていることに気づく。
俺が皆を守って、そしてエルの願いを叶えてやるんだ……!
仲間がいる、ということは心強いけど、自分1人だけを守っていればいい気ままな一人旅とはまた違う。
しっかりと対策を取りながら、慎重に進んでいこう。
世界最強の魔王を倒したけれど、続編になると突然主人公たちが弱くなる現象。これは物語によくある展開だが、まさか自分の身にも同じことが起きるとは……。
俺たちは魔王を倒して世界を救った、というわけではないけど、結構強かったはずなんだけどなあ……。
今まで見てきた物語の主人公たちもこんな気持ちだったのだろうか。今ならその気持ちも痛いほどわかるぜ!辛いよな、お互い頑張ろうな……!!
と、英雄たちの苦悩を噛み締めていると、夕食ができた、とのオイゲンの声がキッキンから聞こえてきた。
ダンジョン出発前最後の暖かい穏やかな食卓だ。明日からは暗い、湿った場所でのせわしない食事が続く。
幸せを噛み締めながらいただこう。




