16泊目 「変なお店だねぇ……」
早速俺とミュウ、オイゲンとニュウに分かれてダンジョン探索の準備を始めた。
オイゲンとニュウには探索メンバーそれぞれの低レベル装備品の購入を頼んである。
俺とミュウはアイテムの調達だ。
シュトーレンの街には多くの道具屋があり、様々な特色を持ったお店が並んでいる。
まず最初に目指す店は薬屋だ。過酷なダンジョン探索に薬は欠かせない。
「それにしても、ユートと一緒に冒険? というか、ダンジョン探索なんて久し振りだね〜。賞金稼ぎの時代を思い出しちゃうな」
「あの頃のミュウには本当に世話になったよな、衛兵用のクエストも密かに手伝ってもらったりもしたもんなぁ」
「ま、ユートよりもあたしの方が実際問題強いからねー! 弱者を助けるのは強者の役目、ってね!」
「いやいや、流石に弱者は言い過ぎだろ!? 確かにあの頃はミュウの方が強かったけど、俺だって身長も伸びたし力もついたし、今なら多分ミュウに勝てるぜ!……まぁ、レベルは元に戻っちまったけどな」
「ふーん? なら一回手合わせしてみる? 史上最年少の賞金稼ぎ、と名を馳せたミュウちゃんの一撃は痛いよ〜?」
「いや、遠慮しておきます……。ミュウの怪力は今でも健在なのはわかってるからな」
「怪力って言い方はちょっと失礼じゃない!? カッコよくて可愛い強い女の子、の間違いでしょー!!」
「はいはいそうですね……っと。まず一件目はここだな」
薬屋に着き、重い扉を押し開けると、怪しげな魔女のような格好にペストマスク、という出立ちをした店主と目が合う。
「アきゃ! コレまタ珍しイ客ガ来たもンだ。今日ハ何が入り用カね? クロエはドコイッた?」
ケケケケ、と笑うその店主の素顔を見た者はこの街にはいない、と思われる。怪しさ抜群の薬屋ではあるが、商品の品質は一級品だ。
ゲストハウスではいつもクロエが薬品類の調達をしているから、ここの店主と会うのは久しぶりでちょっと怖い……。
「今日はゲストハウスの買い出しじゃなくて、ダンジョン探索用のアイテムを買いに来たんだ。回復薬、毒抜き、シールドスプレー、マナドリンク、マナボム、鑑定グラスあたりを見繕ってくれるか?」
「ケケ! お安いゴ用さ! ダンジョンデくたバっちマわない用ニしなキゃネぇ!!」
カタカタとペストマスクを鳴らしながら、店主は店の奥へと姿を消した。
「ねぇ、ここって薬屋だよね? なーんで爆弾置いてんの?」
ミュウがコソコソと耳打ちをしてくる。
「わかんねぇけど、ここの爆弾は何故か軍用品を売ってる店よりも品質が高いんだよ……。どうやって調合してるのかは謎だけど、爆弾はここの店主に頼め、ってずっと言われてきてたな……」
小声でミュウに耳打ちをしていると、突如背後からケケッ! との声がして肩が跳ねた。
奥から店主が戻ってきたらしい。あまりの気配の無さに、本当に生きている人間なのか? と、疑問に思ってしまう。
「ほらヨ、コレでイいカ?」
カウンターの上に並べられた品々はどれも申し分のない品質のアイテムたちだ。
これらがあれば、ダンジョン探索もスムーズにできるだろう。
「有難い! 全部でいくらだ?」
「7万ゴールドだヨ」
「な、7万……中々にするんだな……」
「あっタり前だヨ! ブランドにブレンドヲ重ねテ極限まで威力ヲ高メタ薬とアイテムサ! 文句言うナら売らなイヨ!!」
「いやいや、文句だなんて滅相もない! 全部もらおう!」
ここにきてまた5万ゴールドの出費……。
経費としても厳しいが、ダンジョンでお宝が見つかること信じよう。これは未来のお宝への投資だ……!
「毎度! まタいつデも待ってルわイな!」
薬屋の店主は、より一層大きな声でケケケ! と笑った。
クロエはいつもこの人を相手にしているのか、凄いなぁ、と一人ごちて考えてしまったが、ボヤボヤしている時間はない。次の買い出し先に向かおう。




