99泊目 アタシのキモチ
「そうそう、それでこうして……あ、違う違う。力入れすぎだよ〜」
ミュウから治癒魔法の手解きを受けながら何度か魔法を使ってみようと試みるが、なかなか難しくて上手くいかない……。
やっぱり人間、窮地に陥ることでもないとそうそう大きな力なんて発揮できないのだろうか?
「突然思い出した魔法の力をすぐに使いこなせるようになる、なんてさすがに難しいよ〜。少しずつ焦らずゆっくりと練習してこ?」
焦るな、と言われても早くみんなの力になりたい、困っている人たちを救えるようになりたい、魔法の力は悪いものじゃないと思えるようになりたい。その想いから魔法を早く扱えるようになりたい、とどうしても焦ってしまうなぁ……。
結局手当はミュウの魔法に任せっきりになってしまった。俺は治癒魔法を使うミュウの手元をじっと眺めながら、気になっていたことを聞いてみる。
「思い出した記憶を少し辿ってみたんだが、ミュウ、昔は相当大人しかったよな?逆に、ニュウの方が今のミュウくらい活発に動き回っていた気がする……ミュウたちもお互いの記憶を取り替えたりしたのか?ってくらいに今と違うよな」
なんてな、って笑い飛ばすが、辺りが沈黙に包まれる。
…………?
いつもは何か言うと2倍くらいの返事が返ってくるミュウの声が、珍しく聞こえてこない。
何気無しに掛けた言葉だったが、もしかして嫌なことを思い出させたりしてしまったか……?
そう思ってそっとミュウの顔を盗み見すると、ミュウは顔全体を真っ赤に染めていた。
「それは……ユートが元気な女の子が好きだって……昔言ってたから、記憶を無くしちゃうんだったらそれを機に自分の引っ込み思案な性格を変えてみようと……ニュウも成長してどんどん落ち着いていったし……」
ぽつりぽつりと呟いたミュウの言葉は、よく聞き取れなかったけれど、なんだか努力をして性格を変えた、的なことを言っていた。なりたい自分になるための努力によって、今の元気いっぱいなミュウがいるってことだ。
「ね、ねぇ。ユートは、こんなアタシでも、す……すき……?」
上目遣いでそう聞いてくるミュウは、何故かいつもよりも女の子っぽく見えた。
「ん?当たり前じゃないか!俺はミュウのこと、大好きだぜ。もちろんこのゲストハウスに集う仲間たちも全員家族のように大切だ。こうやって一緒に過ごせて嬉しいよ、いつもありがとうな」
「そ、そういう意味じゃないんだけど……もう!」
何故かミュウはまた口数が少なくなった。やっぱりミュウ自身も久々に魔法を使って少し疲れているのだろうか?
「……はいっ!これで治癒も完璧!血の一つも滲んでいません!まだまだアタシも魔法は使えるみたいね!」
そう言って治ったばかりの手のひらを力強く叩かれた!!
「いってぇ……!!!!これじゃまた治癒魔法が必要になるだろ!!!!」
「うるさーいっ!そしたら魔法を使える良い練習になるでしょー!!ユートのばか!!」
そう言いながら笑うミュウを見ていたら、嬉しくて、有り難くて、心の奥がキュッと鳴いた気がした。
「改めてになるんだが、ミュウ、ありがとな。これからも一緒にいてくれ」
俺はミュウに向き合って、改めてお礼を言った。肉親がいない俺にとっては、ミュウは大切でかけがえのない家族の一員だ。
「ユート……」
ミュウが何かを言おうとして口を開いたその瞬間、部屋のドアが勢いよく開かれた。




