プロローグ「こんな不味いご飯が食えるかぁ!!」
ーー拝啓、ゆきち様。
それとゆきち様の下僕……じゃなくて、従業員の皆様。先日はお世話になりました。おかげで××は、遂に×××に××××××き×し××
「……なんだよコレ、全然読めねぇ」
猫の爪と牙によって遊ばれた手紙は、前半部分のみ、なんとか認識できる状態だ。俺はその手紙を丸めてゴミ箱に投げ入れた。そして大きく深呼吸をして立ち上がり、春の朝日が差し込むこの部屋を出た。
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「まっずー! 何コレ! マズい! 何て料理!?」
「あ? うるせぇな。黙って食え。ゴブリンの手の煮付けだよ」
「最ッ悪! なんてモン食べさせてるのよ! うぇぇ……知りたくなかったわ……」
「お前が何て料理か聞いたんだろ!? ほら、マンドラゴラの漬物もあるぞ」
うーん、相変わらず賑やかだ。マンドラゴラの漬物をかじりながら、俺は目の前の喧騒を眺める。よく見る光景ではあるが、ここはいつもの食卓とは違う。薄暗いダンジョンのど真ん中だ。こんなことになったのも、全てアイツがウチに来てから。まったく、とんだ厄病神を拾ってしまったようだな……。
それにしても、マンドラゴラの漬物というものもなかなか悪くない。ダイコンのような歯触りに、ニンジンのような甘み。そして夏を連想させるキュウリの塩漬けのような爽やかに鼻を通る酸味。ダンジョンで採れる食材であれば採取をすれば手に入るし、これはゲストハウスへのいい呼び込みになるんじゃないか? と、ダンジョンに潜っていても商売のことをどうしても考えてしまう。
そんな平和なランチを楽しんでいるその時、騒がしい団欒を切り裂くかのような咆哮が俺たちを襲ったーー。




