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罪悪感

 俺、津瀬草太は荒れていた。

 理由はもちろん忌々しい奏雨遥真だ。


 元々俺は張替恋羽に好意をよせいていた。

 誰に対しても人当たりが良くて、学校一可愛かった彼女に好意を抱くのは当然の帰結だったのだろう。


 俺は仲良くなりたいと思った。

 彼女は俺が毎日話しかけても楽しそうだった。

 俺は男子の中では一番仲良くされていると思っていた。


 なのに。


 最近、ようやく張替と仲良くなれたと思っていたのに、急に現れたあいつが全部掻っ攫って行きやがった。


 俺が先に彼女の心に一番近づいたんだ。


 俺は分かりやすくあいつに嫉妬していた。

 みっともない事は分かっていたが、感情を抑える事は出来なかった。


 だから、出来心だった。

 ちょっとしたイタズラで報復なんて大層な物でもない。

 あいつがちょっとだけ困れば、なんて考えた。


 そして、俺は躓いたフリをして奏雨にお盆を放り投げる。


 その結果は。




★★★




「ゆっくり下ろしますよ」

 保健室まで彼女を連れてくると、椅子にゆっくりと下ろした。

 すぐに保健室の先生が来て怪我をしているであろう足を診る。


「これは完全に捻挫してるわね」

「……」


 予想はしていたが、やっぱり捻挫しているようだ。

「とにかく冷やしましょう。それと今日は運動しちゃダメね」

「そんなっ! だって今日はライブが……!」


 彼女は悲痛な顔で叫ぶ。


(ああ、やっぱり彼女は……)

 どこかで見た顔と、張替と仲が良いことから、多分そうなんじゃないかとは思っていたが、彼女は張替の所属するアイドルグループの一人らしい。


 彼女がアイドルで、ライブが出来なくなった事が分かった瞬間、魚形が泣きそうな声で謝り始めた。


「ごめんなさい。私のせいで……」


「いや、魚形は……」


「ごめんなさい」


 僕は魚形の責任じゃない、と言うも、魚形は暗い顔でずっと頭を下げて謝り続けている。

 床に水滴がぽつりぽつりと落ちる。


「……っ!」

 僕はすぐに教室を飛び出した。

 ポケットからスマホを取り出し電話をかける。

 相手は二人。


 そのうちの一人と電話が繋がった。

「もしもし」

『おやおや、君からかけて来るなんて珍しいねぇ』

「ああ、ちょっと頼みたい事があって」

『頼みたい事?』


 目的の物を彼女に伝える。


『分かった、一時間で用意するよ』

「ありがとう、櫻井」


 最後にお礼を言って電話を切る。

 そしてもう一人呼び出した。


「──もしもし、姉さん」

『何?』


 電話口から姉さんのそっけない返事が聞こえる。


「今から学校来れる?」

『まぁ、予定は入って無いけど……』

「ちょっと教えてもらいたい事があって」

『……分かった、すぐ行く』


 姉さんはそう言うと電話を切った。

 すぐ来てくれるだろう。

「これで、よし」


 それじゃあ最後の仕事だ。

 まず一発殴らないといけない奴がいる。



★★★




「何で呼ばれたかは分かってるよな?」

「……」

 校舎裏、僕の目の前の津瀬は終始無言で立ち尽くしている。


「じゃあさっそく」

 沈黙を肯定と受け取った僕は、思いっきり腕に力を込めて津瀬を殴り飛ばした。


「これは魚形を泣かしたのと、怪我人を出した分だ」

「……こんなんで良いのか?」


 津瀬が不思議そうな声で僕を見上げる。きっと自分がやった事に対しての罰が軽すぎると思っているのだろう。


「ワザとじゃないんだろ?」

「なんだよそれ……」

「とにかく、早く謝りに行ってこい。じゃないと今度こそ思いっ切り殴るからな」


 僕はそれだけ言うと踵を返す。


「器広すぎなんだよ……」



 後ろから聞こえてきた嗚咽は聞かなかった事にして。

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― 新着の感想 ―
[一言] 僕だったらどうしてたかなぁ まあいずれにしろ、こうかっこよくはできなかったな
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