高校卒業記念に書いてみた百合
某新型感染症の影響で、ある意味一生忘れられない卒業式になったので。
まあ卒業式が行われただけ幸運なのかなって思いながら書きました。
高校三年間。人の生きる長さを考えれば、あまりに短いその月日。だけど、思い出は次々に浮かんで来る。
時間の価値というのはきっと、どれくらい過ごしたかではなく、何をして過ごしたかで決まるのだと思う。あるいは、誰と、過ごしたか。
「那奈ー、なーにたそがれてんの?」
「……はるか」
「卒業式終わって、しんみりムードかー?」
「そんな感じでなくもないかもしれない」
「どっちだそれは」
ちょうど貴女のことを考えていました。なんてことは絶対に教えてやらない。恥ずかしいし。それにーーー。
「大学、一緒に通えるんでしょう?はるかが居てくれるなら、そんなに寂しがることもないし」
「……二次で受かってたら、AO入試で合格したどこかの誰かさんと同じ大学に行けるんだけどね。まあ落ちても浪人して追いかけてやるけどさ」
ぶっきらぼうな言い方だけど、はるかの顔は真っ赤に染まっていた。センターA判定だから余裕って言ってたくせに、へたれるなよと思う。だけど、言葉の最後で私への執着を見せてくれるのは堪らなく愛おしい。
「ふふっ、照れ屋さんめ」
「ちょ、抱きつくなし!」
「いい匂いがする」
「嗅ぐな!」
「あたた」
変態、と罵られる。仕方ない。こんな甘くて落ち着く匂いをしてるはるかが悪い。
「ねえ那奈。写真撮らない?」
「ん、いいよ」
「じゃあほい、チーズっと」
カシャシャシャシャシャ
連続してなるシャッター音に、はるかと二人驚く。連写になってしまった。はるかが右手を軽くあげ、謝意を示してくる。
「ごめん、撮りすぎた」
「……まあ、いいんじゃない。制服姿で写るのも今日が最後なんだし」
「それもそうだね」
「明日以降制服着てたら、コスプレになるのかな?」
「なるのかもしれない」
ふざけたやりとりを、至極真面目に繰り返す。それも、私とはるかの当たり前。
こんな日常が、ずっと続いてくれたなら。過剰な幸運などなくても、その時間は私にとって、何にも替えがたく大切な宝物になるのだろう。その時間を、私は大切にしたい。
ささやかな願いを胸に、私ははるかと戯たわむれるのだった。