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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

先輩に一目惚れした話

作者: 瓶覗

 六限の授業が終わり、皆が部活に行ったり帰宅したり、そういったゴタゴタがある程度終わった頃。

 私は、一人の人を追って教室を出ていた。


「あ、あの!」


 思い切って声をかけると、その人は周りに他の人が居ないことを確認してから振り返った。

 振り返る瞬間、長く綺麗な黒髪がふわりと揺れて、とてもとても綺麗だった。


 ひえ、と小さな声が漏れた気がしたが、そんなこと気にしていられない。

 私は、意を決して目線の先の美人な先輩にしっかりはっきり聞こえるように、声を張った。


「ひ、一目惚れしました!お名前教えて頂けませんか!?」


 先輩はその言葉を聞いて、小さく首を傾げた。

 そんな姿がどちゃくそに可愛い。心臓止まりそう。


 私がこの先輩を初めて見たのは、とある授業。

 一回目は初めての授業に緊張して存在に気付けず(不覚)二回目に先輩のそれはそれは美しい横顔に見とれて、思考が止まって声をかけるまでいけなかった。


 この高校はいわゆる「普通」の学校である全日制ではなく、色々説明すると大学みたいだねと言われる単位制の高校である。

 その最たる特徴は、授業の選択を自分で出来ること。自分で選ぶから同じクラスの人とも別の授業に参加する事になるし、別の学年の人と同じ授業に出る事が多くある。


 私はそんな選択授業で先輩に一目惚れし、授業終了後のんびりと帰り支度をする先輩と教室を出るタイミングを合わせるため、わざとかと思われるほど(実際わざと)プリントを入念に確認してみたりしていたのだ。


 そして今、まわりには誰もおらず、遂に先輩に声をかけることに成功した。

 自分を褒めてやりたい。今日はスイーツ買って帰ろう。


 心臓が止まりかけて魂がお散歩している間に、気付けば先輩が近くに来ていた。

 今度こそ心臓が止まる。多分今止まった。


「三年一組、如月きさらぎれいです。お名前は?」


 手を差し向けられて、はっとする。

 人に名を聞いておいて自分が名乗らないとか、私はなんというマナー違反を!?


「申し遅れました!一年二組二番、池田いけだ雪乃ゆきのと申します!」


 敬礼でもしそうな勢いで名乗ると、先輩はくすっと笑った。

 今、今心臓止まりました。はい、今のは止まりました。


「で、一目惚れ?」

「はい!」

「同性に?」

「はい!!」

「……ふふ、まあ、よく分からないけどいいや。これから暇?」


 その言葉の意味はよく分からなかったが、暇かと言われれば暇である。

 部活も何もやっていないし、別に用事はない。

 コクコクと頷くと、先輩は笑った。

 私は何回心臓を止めればいいのだろうか。


「なら、桜餅食べに行こ。駅の近くに和菓子屋さんがあるから」

「桜餅、ですか」

「嫌い?」

「好きです!」


 なら行くよ、と先輩は歩き始める。

 その背中を追いかけながら思う。

 これ、放課後デート??


 いやまあ、別にお付き合いしているわけでもなんでもなくて、なんなら一目惚れ宣言してお名前聞いただけなんだけど、でもこれデートだよね??ね??


 足取り軽く歩いていく先輩を追って、学校を出る。

 校門を出て、先輩の後ろを歩いていると先輩が立ち止まって振り返る。

 どうしたのかな?と首を傾げると、先輩の横を指さされた。


 ……横に来い、ですか?

 えっそんな横になんてそんな……行きます!


 駆け足で横に移動すると、先輩は再び歩き始める。

 その横顔はなんとも綺麗で、じっと見ていると目に手を当てられる。

 ひええ。


「君は、電車通学?」

「あ、そうです」

「上り?下り?」

「上りです」

「じゃあ、同じだ」


 頭に手を添えられて、そっと前を向かされる。

 多分私の心臓もう息してない。後でついったの名前に墓建てとこ。

 心臓を摩りつつそんな事を考え、横目で先輩を見る。


 今度は目は塞がれず、その代わりに先輩は駅の横辺りを指さした。


「あ、あれだ」

「見えますか」

「うん」


 先輩が指さす先を探すと、確かに一件お店が開いている。

 軽い足取りで進む先輩を追いかけ店内に入り、ショーウィンドウを覗き込んだ。

 そこに並ぶのは、春らしい華やかな和菓子たち。


「ほわー」

「桜餅二つ。……他に何か食べる?」

「え、あ、いえ、今は」

「そう。じゃあそれで」


 流れる様に注文を済ませ、先輩は飲食スペースに座った。

 慣れてらっしゃる。あと綺麗。顔がいい。


「先輩慣れてますね」

「まあ、一年の時から来てるしね」

「常連さんだった……」


 話しているうちにお茶が運ばれてきて、続いて桜餅が運ばれてきた。

 丸いお皿にちょこんとのった桜餅の可愛いこと可愛いこと。

 お女子たちはここですかさず写真を撮るんだろうが、私にそんな習慣はない。


 ただ、一緒に居る人が写真を撮り終わるまで待つ習慣はある。

 先輩は写真を撮る人だろうか、と目を向けると、もう既に桜餅に手を伸ばしていた。

 あー。可愛い。これは可愛い。


 ヴッと謎の声が漏れた気がしたが、先輩は何も言わないので多分大丈夫。

 私も桜餅に手を伸ばし、とりあえず一口齧る。


「……美味しい」

「でしょ?」


 なるほど常連化するわけだ。

 私も通いそう。連日来そう。

 そのままもっきゅもっきゅと桜餅を食べ終え、お会計時に財布を出そうとしたら止められた。


「いいよー。そんなに高くないし」

「いやでも……」

「はい、行くよー」


 結局桜餅代は受け取ってもらえず、駅に向かう先輩を追いかける。

 電車の時間はちょうどいい感じ。

 もしやそれが分かっていて桜餅を食べに行ったんだろうか。


 改札を通って、電車を待ちながらスマホをいじる先輩を眺める。

 ひえー。美人。目の保養。


 拝みたくなる気持ちを抑えて整った横顔を眺めていると、そっと目を塞がれた。

 そのまま降りる駅を聞かれ、答えているうちに前を向かされる。


「なら、私の方が降りるの早いな」

「そうなんですか?」

「うん。二つ前」


 話しているうちに電車が来て、案外空いてるなぁ、と思いながら乗り込む。


「昨日はもっと混んでた気がしたんですけどね」

「それ、多分一本前のだよ。あれ混むから嫌いなんだ」

「なるほど」


 それでのんびり帰宅準備をして、桜餅を食べて帰るのか。

 三年生にもなると色々工夫するんだなぁ……

 その後は先輩からの質問に答えたり、逆にいくつか質問しているうちに先輩の降りる駅に着いた。


「じゃあね。気をつけて帰りなよ」

「はい!さようなら」

「ん。ばいばーい」


 軽く手を振って去っていく先輩を見送り、空いてる座席に座ってスマホをいじっているうちにふと思う。

 ……ここまでおしゃべり出来たんだから、連絡先くらい交換すれば良かった!!!言うだけ言ってみれば良かった!!!


「はああ……やってしまった……」


 おしゃべり出来た幸福感と、連絡先を知り損ねた悲しみの間で揺れ動きながら、私は先輩と被る授業がいつか確認するのだった。


 その後、色々思いを馳せすぎて最寄り駅を通り過ぎそうになったのは内緒。

百合っていいですよね。

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