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少女は言葉を飲み込む。  作者: 櫓丸
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6-医学者-

我は過去に縛られていた、昔倒れていた人間を拾ったことがある。

人間は幼く、脆かった。

我は声をかけた。

「子供、道に迷ったのか?なら出口まで連れて行ってやろう。いや、しかしお前は病か。治してやろう、人間の病など我には簡単なものだ。」

自分でも思うが、もう少しまともな声の掛け方は無かったのかと思う。それこそ、薬学者のような物腰の柔らかさを見習うのが良いのだが、アレは我には難しい。

こんな声の掛け方なのに、子供は笑って頷いた。


子供は病が治ってから我の後を雛鳥のように付いて回った。

これは何だ、それは何だ、だの質問をして我を困らせた。同時に愛おしさも感じていた。

親とはこんな気持ちになるのかと思った。

街の連中には、

「別れが辛くなるだけ。」

「裏切られる。」

と口々に言われた。しかし我は子供がそんなことをしないと確信に似た気持ちがあった。

妄信的なものだった。


ある日、子供がいなくなった。街も森も探した。

しかし何処にもおらず、消えてしまった。街の目撃情報によるとモノに連れて行かれたのだと。

油断していた、人間は我々の世界に長くいるべきではなかったのにモノが近寄ってこないから油断したのだ。

モノは狙っていた、子供が1人になるのを。虎視眈々と見ていたのだ。

悔しくて悲しくてその日は家から出なかった。涙が止まらなかった。

窓の外には、見知った姿のモノがいて我に語り掛けてくる。

「お母さん、お父さんに会いたいよ。助けて、助けて。帰りたいよ。」

元の世界に早く帰せばよかった、後悔した。


我はそれから人間が来ても、すぐに出口に案内するようにした。

病に倒れていても、気にせず案内した。そのせいか、家の表札はくすんできていた。

何もかも諦めていた時、薬学者が森に誘ってきた。気乗りはしなかったが、仕方なく付いていった。


そこで、あのエヴァに会った。

エヴァは森に倒れていて、見た瞬間に何かが喉に詰まっていると分かった。飴でも飲んだかと思ってスルーしようとしたのに薬学者は駆け寄っていった。


我は干渉しないと思っていた、なのに目を覚ましたエヴァの目があまりにも悲しそうで苦しそうで見ていられなかった。

なぜ笑わない、拾った子供は笑っていたような奴なのに。

何故敬語なんてスラスラ出る、子供は無礼な位が可愛いだろう。

どうして、一瞬でも生きることを諦めたんだ。生きる理由を見つけようとしないのか。


我は頭がいっぱいになった、医学者としての我が気付いたら手を伸ばしていた。

体に収まったエヴァは抵抗もなくされるがままだった。だから本能のままに、頭が指し示すままに背中をさすると楽になったのか息をひときわ大きく吐いた。


そのまま街に案内することになって、エヴァの血液を片手に家に向かう。

救ってみせると意気込んで、病の調査に取り組んだ。


表札のくすみは落ちていて、医学者の字がよく見えた。


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