6-薬学者-
その子を見た時、なんて綺麗な髪なんだろう、と感じた。
私と医学者はその日、足りなくなった薬の材料を取りに森へ出ていた。
粗方薬の材料を回収して、暗くなったしモノが出てこられても困るから早く帰ろうかなんて言って森を歩き出した。
私達の周りを輝石が浮いて辺りを照らしていた。森は木の根っこなんかが出ていて危ないし、モノは光に寄ってこれない。
それは私達の常識で、危険から身を守る為に行うことだった。
森に光もなく入るなんて、よっぽど死にたいか非常識かだけ。
だから、まさか森の中で女の子を見つけるとは思わなかった。
輝石の光が先にある何かに反射して、森の闇の中に輝く何かが見えた。
純粋な興味と薬に使えるかもしれないという期待で輝く何かに足を進めた。後ろから医学者が咎める声を出したけど、そんなものを無視して進んでいく。
医学者は諦めたように後ろを付いてきた。後ろからブツブツとねちっこい呟きが聞こえてくるけど、私には関係ない。
光を反射して輝く何かは、人間の髪の毛だった。
地面に倒れた人間の女の子、髪の毛は白金色で光をよく反射する。長さは肩ぐらい。
白を基調にしたワンピースを着ていて、土に汚れていた。上質そうな布だから、服屋が激怒しそうだと感じた。
肌も白く、顔色がとても悪い。心なしか息がしにくそうだった。ヒューヒューと音がするし、放置したら死ぬと判断出来た。
「…薬学者、人間か?」
「うん、まだ生きてる。モノによる侵食もない。」
ペタペタと触りながら簡単に調べる。
その時微かに瞼が動いた。
「君、君。大丈夫かい?…顔色が悪い、医学者助けてあげられないかな。」
起きてほしいと思い、揺すりながら声を掛ける。
「薬学者、もう駄目なんじゃないか?この子は人間、しかも幼い。自然の摂理に任せよう。我々が介入するようなものでもない。」
医学者は露骨に関わらないようにしていた、過去に関係しているとわかっているが今は過去に引きずられている場合ではない。
「…しかし医学者、この子が此処にいるという事は何かしらの事情があるんだ。もしかしたら病持ちかもしれないだろう?だとしたら、私達が介入すべきだ。」
少女の背中を撫でながら医学者を見る。彼はそれはそれは辛そうな悲しそうな顔をしていた。過去に縛られて、目の前の患者を助けないなら彼は一体何なんだろう?
医学者の名を語るに値するのか?
小さな呻きと共に少女が目を覚ました。薄く開いた瞼からは鮮やかな蒼眼が見えた。
まるで絵の具を垂らしたみたい、だなんて思いながら医学者に声を掛ける。
「あっ、医学者。目を覚ましたようだよ。大丈夫かい?」
少女の瞳の中には、自分の姿がはっきりと映っていた。
少女の印象は、不思議な子。そして目が綺麗な子、だった。
別視点、難しい。