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少女は言葉を飲み込む。  作者: 櫓丸
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扉が開いて目に入ったのは大きな大きな木だった、木の表面に窓が見えるので中は空洞なのだろう。

木に向かって大通りであろう道が続いている。大通りには様々な形の家が並んでいる。

道行く人の頭には角が生えていて、オレンジの光を反射して煌めいていた。

背中から手がたくさん生えている人や、足が蜘蛛のように生えている人。骸骨が服を着て歩いていたし、耳が魚のヒレの人。それどころか人の形をしていない人もいた、目がいっぱいある人とか大きな狼が話しながら歩いていたり…衝撃的な世界だった。


「おい、大丈夫か?」

医学者さんが声を掛けてきたので街に向いていた意識が帰ってきた。

「は、はい?」

「いや…街に入った途端間抜け面で見ていたから。そんなに驚いたか?」

「…キラキラしてて、綺麗だったのでつい見ちゃいました…。まるで小説の中みたいです…。」


これまで読んだ小説にはファンタジーというジャンルもあった。だから、小説と重ねたりして興奮していた。だって、現実では絶対ないようなことだった。


「まぁ、大丈夫ならいいが。で本題だが、血を寄越せ。」

この言葉で興奮も冷めた。とりあえず、と道の端に移動して問いかける。


「血、血ですか?」

「そうだ、検査に必要なんだ。この小瓶ぐらい。」


差し出された瓶は掌に収まる位小さいが、血を出すのは嫌だった。

怖いし、痛い。

「医学者さん、注射とか…。」

「お前、注射嫌いだろう。それと、我の家に他の奴を入れないから家でやればいいという意見は却下だ。」


何で注射が嫌いなのがバレたんだろう?言ってないのに。

しかも考えていたことを見抜かれて先に却下された。


「ほら、薬学者もいるし傷薬も貰える。さっさとしろ、治したいんだろう?」


鋭く輝くナイフを渡されて固まる。

治したいけど、ナイフで血を流せというのかこの医学者さんは。私が言うのもあれだが、私だってまだ11だ。顔も比較的整っているし、可愛いと思う(世間に散々言われたからだけども)

薬学者さんは助けてくれないだろうか、そう思って見ると困ったように笑った。


「病が分かったら私も薬を作るから、我慢してほしいな。」


ダメだ、これは四面楚歌。私に味方はいない。

絶望していると背中から低い声が聞こえた、大通りを歩いていたんだろうか。


「薬学者に医学者じゃないか、また森で薬草採取か?」


私の姿がまだ見えていないのだろう、そりゃそうだ。薬学者さんと医学者さんは大きい。180cmはあるんじゃないか。

そんな2人に囲まれたら見えないに決まっている。


「おや、戦争屋。いいところに。」

「丁度良い、ナイフの扱いは上手いだろ。」


戦争屋なんて物騒な人はどうやら私の流血に一役買わされるようだ。

「ナイフ?得意だが…なぜだ?」

「迷った子の病を調べるのに血が必要なんだけど、怖がっちゃって。」


私の背中を見つけたのだろう、納得したような声を漏らしていた。

そろりとナイフを持ったまま振り向いて見る。

戦争屋さんはとても美しかった、目は赤くつり目がち。髪は金色で、短い。角は今まで見たものより大きく右の角は折れていた。2つ生えていたら上に向かって大きく生えた角が見れただろう。眼鏡を掛けていて、首元には真っ赤な石のチョーカーがあった。

戦争屋さんは私と目を合わせて、目を軽く見開いた。


「…随分可愛らしい人間だな、俺は戦争屋。大きな戦争も小さな戦争も俺が巻き起こして解決しよう。人間は戦争が好きだろう?資源確保には最適だしな。」

「戦争なんて嫌いです!」


頭がカッとなって口から出してしまった思いの外大きな声に自分で驚いた。

他の人も驚いたようで、道行く獣の方や獣の耳が生えた人がこちらも見ていた。


「あ、ごめんなさ…。」

「人間、お前は戦争が嫌いだと言ったな?なら問うが、戦争をしなければ平和になると思うか?軍の幹部の娘なのに、お前は戦争で得た金で飯を食っていたようなものだ。」

「…分かってます、そんなこと。自分が戦争のおかげで生きていたことも、戦争が無くなってもすぐに人は戦争をする。平和になんてならないってことくらい、私にも分かります。でも、戦争をして得られるのはお金だけ。失うものは多い、身近な人が死ぬのは辛い。私はもう近所のお兄さんが出かけて行って帰ってこないのは見たくない…。」


話しながらなんて支離滅裂で幼稚な意見なんだろうと思った。泣きたくないのに涙が止まらなくなって、もう3人の顔が見えない。汚く泣きじゃくる私は俯いて、更に言いたかったことを飲み込んだ。

その時、医学者さんが抱き寄せて耳元で話しかけてきた。

「飲み込むな、言葉を飲むな。吐き出せ、言いたいことを言え。」


その言葉を聞いた途端、言いたかったことが口から溢れるように出てきた。


「戦争って怖いし、みんなが悲しむし、誰も喜ばない。死人は増えて、更に悲しむ人が増える。そんな悪循環って無意味ですよ、みんなで分け合えば良いのに馬鹿みたいに奪い合って醜い様を世界に見せているのに、目先の欲を優先させて先の評価を地に落とすなんて馬鹿じゃないですか。そんな欲深い人は因果応報で死にますよ、私が殺してやりたい位です。あんな父親なんて!!」


自分の言いたいことを言って、今までこんなことしたことないから訳が分からないのに涙は止まらないし呆然と3人はこっち見てくるし。

私の考えは幼稚だとか、結論が無いとか怒るのかな。やだな、だから言いたくなかったのに。


「幼いのによく考えているな、意地の悪い質問をして悪かった。お前が父親に上層部のご機嫌とりに使われているのは知っていたのにな。戦争を好きになれる訳が無いな、だから泣くのはやめてくれ。お前の名前は何と言うんだ?教えてくれ。」

「エヴァ、エヴァです。ラストネームは言いたくないから言わないです。」

溢れる涙を戦争屋さんは革の手袋で拭った。少し皮膚が引っ張られて痛かった。

「そうか、エヴァ。エヴァだな、お前はよく考えている。戦争は良くないものだ、しかしそれで商売をする奴もいる。俺だが。そんな奴はどうしたら良いか、考えているか?」


突然の質問に首を傾げながら、答える。


「私だったら、そんな人でも就けるような仕事を増やします。勿論稼ぎは変動しますが、職を持つことが大切だと考えています。でも、きっとまた何かしらの壁が立ちはだかります。それを1つ1つ解消していかなくてはいけないと思ってます…。」


考えを否定されそうでビクビクと怯えながら意見を言う。この意見は昔父に言ったら酷く非難して罵倒されたことがある。おかげでこの意見はそれから誰にも明かしたことはない。


「まだまだ幼稚だが、先を見据えての解答。しっかりした意見、全員に平等に金を分けるとかではない意見は素晴らしい。」


かけられた言葉は私を喜ばすのに十分で、意味を噛み締めて頬が緩むのを何とか抑えようとしている。そんな私の様子を微笑ましそうに見る2人とじっと見つめる戦争屋さんには気付かなかった。

「褒められて嬉しかったんだね、医学者見てごらんよ。あんなに嬉しそうにして、可愛いね。」

「褒めてくれた相手が我々から依頼されて傷付けようとしている奴だとは思ってない顔だな、あれ。」


聞こえた声にハッとして戦争屋さんを見る。

戦争屋さんはギギギっと音がなりそうな挙動で目を逸らした。その手にはいつの間にかナイフが握られていた。


「あー、えー、エヴァ……許せ…。」

その声と一緒に私の腕に銀の線が走った。

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