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緩やかに浮かんで流れるような心地良さの中、誰かが私を呼ぶ声が聞こえた。
優しくて、父みたいに低くもなく、母みたいに高くもなかった。
怒ったような声でもないし、失望しているような声でもない。心配して、声を掛けている。そんな声。
「君、君?大丈夫かい?…顔色が悪い、医学者。助けてあげられないかな。」
その人の声と違うもう一つの声が聞こえた。
こちらも心配しているようで、でも決して心配するようなことは言わない。
「薬学者、もう駄目なんじゃないか?この子は人間、しかも幼い。自然の摂理に任せよう。我々が介入するようなものでもない。」
「…しかし医学者、この子が此処にいるという事は何かしらの事情があるんだ。もしかしたら病持ちかもしれないだろう?だとしたら、私達が介入すべきだ。」
言い合いを始めてしまったので、瞼を薄く開ける。煌めく銀が見えた。
「あっ、医学者。目を覚ましたようだよ。大丈夫かい?」
私の顔を覗き込むのは確かに人なのに、人に無いようなものが見える。鱗とか角とか。
その人、薬学者と呼ばれる人はサラサラの銀色の腰までの髪の毛を持ち、頭には透き通った硝子みたいな鹿の角。
目は薄めの水色で瞳孔は細く縦長だった。更に目を惹いたのはその人の頬から首にある鱗だった。真珠のような輝きを持った鱗が首から右目まで生えていた。
服は不思議で中華服のような黒い服に白衣を着ていた。
「お医者、さん…?」
白衣を見て口から漏れた言葉に目の前の綺麗な人は目を丸くした。白衣を着ているのに、何を驚いているんだろうと思った。
「お医者さんは私では無いんだよ、私は薬学者だからね。いや、でも良かった。目を覚ましてくれて。君を見捨てたら私達も夢見が悪くなるからね。」
意識が朦朧としていたからか、その薬学者さんに驚いたけど叫ぶ事はなかった。
怖がることもなかった。敵意が感じられないからだろうか?
そう考えている私の肩を優しい手が掴んで引く。
「おい、薬学者。その子の喉に何か詰まっている。脳に酸素が渡っていないぞ、酸欠状態だ。貸せ。」
強い言葉なのに温かい。こちらも敵意を感じなくて、私は引かれるがままに動いた。
背中に温もりを感じてそっと見上げるとこちらも角が生えていた。
白衣を着ていて、髪の毛はオレンジ色。
目は左右一緒ではなく、右目は青なのに左は白い部分が黒くて真ん中は白い目だった。
角は前に突き出すような形の角で、木のような表面だった。よく見ると額も木のようだった。
その人は私の背中をポンポンと数回叩くと、喉が開くような感覚。詰まっていた物が少し取れたような感覚がした。
「飴でも飲んだか?でもそれにしては取れないな…。一体何を飲んだ?」
「飴は、飲んでないです…。昔から喉に何か引っ掛かってるような感じはあるんです、持病です。」
持病だと言うと、薬学者さんも医学者さんも難しい顔をして背中を向けた。声を潜めて、話していた。
何を話しているのか私は分からない、どこまで逃げたのか確認しようと辺りを見渡しても暗くて、2人の持つ輝く石だけが近くを照らしていた。
元来た道は分からなくて、立ち上がって暗い森の方へ足を進めると医学者さんが私の肩を掴んだ。掴んだ手は爪が長くて、硬かった。少し痛かった。
続きです、エヴァの名前すら出ない。