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少女は言葉を飲み込む。  作者: 櫓丸
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なぜ私はここにいるんだろう?赤色の砂岩で出来た道、照らすオレンジの街灯。人々の声が四方八方から聞こえて、和やかな雰囲気がある。

ただの街のようだが、人々はただの人々ではなかった。

角を生やし、不思議な病に侵食された人が歩く街。

その街を私はとある人に手を引かれて歩いている。隣を見れば金髪に赤目の容姿端麗な男が楽しそうに歩く。頭にはひび割れ片方が折れた大きな角が上に伸びている。


そんな彼を見ながら私、エヴァはこんな事態になった原因を思い出し始めた。


私が生まれたのは1970年代頃のとある軍事国家だった。

父と母は望まぬ婚姻で夫婦仲は劣悪、私は2人に板挟みにされて困っていた。

父は軍関係の偉い人のようで、小さい頃はよく他の偉い人に会わせられた。父に逆らうと彼は私を酷く罵倒するので、私は逆らえなかった。

母は父の稼ぐ金で豪華なドレスを買ったり派手な遊びをしたりしていた。おかげで父には邪険にされていて、私に八つ当たりをしてきた。やれ父がこちらに目を向けないのは娘であるお前のせいだの、娘のくせに父に色目を使っているだの、散々な言われようだった。

しかも私は悲しいかな、昔から呼吸がしにくい病を患っており運動は出来なかった。走ればあっという間に呼吸が出来なくなるからだ。この病は年々悪くなり、私の喉にはまるで腫瘍でも出来たように異物感が拭えなくなった。

医者にも見せたが、原因不明で分からずじまい。期待はやめて、私の運命なのだと受け入れた。


そんな暮らしをしていたある日父が話しかけてきた。

「近い内に隣国と戦争をする。総統閣下が来るから行儀良くするんだ。いいな。」

拒否権なんてない冷たい声に震える手を押さえつけて頷く。

反論したいのに、体が防衛本能を働かせて反論の言葉を飲み込む。その度に私は喉が詰まる感覚がしたのを覚えている。


総統は夜に訪れると聞き、私は部屋に帰った。

部屋に着いて、俯く。涙は頬を伝って床に落ちていく。

泣いても誰も助けてはくれない、家には家政婦等もいたが彼らは親の味方なので私の味方ではなかった。

「っう…ぁあ…っ…。」

涙を流しながら思い浮かべるのは前の戦争で徴兵した隣の家の青年のこと。

遊んでくれた彼は戦争が終わっても帰ってこなかった、隣の家は空き家になって誰も住んでいない。

彼のようにまた誰かがいなくなるのは嫌だった、戦争が嫌いだった。

それを父に言うだけの勇気がなかった、言葉を発せなかった。

戦争をすると言う父に、国に絶望した。どうにか分かって欲しかったのだ、戦争は何も生まないと。

でも、私は伝えることを諦めてしまった。

ドアの前で俯いて座る私の耳に、追い打ちをかけるように声が聞こえた。使用人と母だった。

「あの子は本当に嫌、殺してしまいたい。美しくなって、私とあの人の仲を引き裂くつもりよ!総統閣下にも色目を使って…、早く追い出さないと。」


私の心は耐えきれなくなって、小説で得た知識を元にシーツを破ってロープにした。それを使用して窓から外へ出た。

外はまだ日が上っていて、でもオレンジが強い光だった。

私は当てもなく、逃げるように走り出した。

遠くへ、遠くへ走ろうと。見つからないように林や公園を通って離れた森の奥まで走っていく。

森の奥は葉で陽の光は遮られ、少し暗く肌寒かった。それでも私は走り続けて、かなり奥まで来た時だった。

身体を酷使し続けて、足が上がらなくなり地面に倒れた。もう空は藍色に染まり、元の道は分からなかった。

酸素が頭に回らず、朦朧とする意識の中で霧の漂う森を見て意識を失った。


初めての投稿となります。暖かい目で見てください。

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