ながめがよいこのごろ15
固いシートに重たいヘルメット。卵の中で私は目覚めた。
ヘルメットをおろすと、同時に卵の殻が開いた。
『egg』が現在の時刻を伝える。
『12月9日18時1分、使用者コード26758、お帰りなさいませ』
結構長い間いたと思ってたんだけど、現実では二日しかたってなかったのね。
みんなきっと会議室で頭を悩ませてるでしょうね………気にすることでもないけど。
『egg』から出て、まず一度大きく伸びをした。そして周りには誰もいないことを確認──いや、一人いた。私の『egg』に寄り掛かるようにして眠っている。ボサボサの髪に整えられていない少しだけ顔出した髭、ヨレヨレの白衣を身に纏って、おまけに仮想空間ナビゲーターを耳にはめている。
彼の開発したそれは、仮想空間内で異常が起きたときシステム管理者が外部から仮想主をアシストするためのものだった。それも『egg』同様に高出力での実験はまだだった。
………そうか、やはり──
私は彼を揺すって起こした。
「如月くん、如月くん!起きて!」
如月くんはゆっくりと目を開き、私を見るとはっきりと目が覚めたようだ。
驚いて声もでない彼に向かって私は一度ウインクして言った。
「おはよう、如月くん。──私の名前、呼んでくれるんでしょう?」
すると彼はハッとして、すぐにいつも通りの優しい笑顔に戻った。
「おはよう、二宮絵瑠菜さん。いい夢は見れた?」
「ええ、とっても。あなたのおかげで」
彼はハハハと笑って照れくさそうに頬を掻いた。
「………じゃあ、返事を聞かせてもらっても………い、い?」
私は頬を赤らめたいる彼の耳元に一言を届けると、全ての『egg』のコードを引き抜いた。やがて全ての明かりが消えた後、部屋には役目を終えた卵だけがいつまでも、ひっそりと残っているのだった。
ながめがよいこのごろ、ここで完結となります。
それからもう少しで2018年も終わりですね!
来年もたくさん書いていくので、是非お越しくださいね!
それでは、よいお年を!