ながめがよいこのごろ12
『WORNING!WORNING! 』
研究所内に警報とアナウンスが鳴り響く。
『仮想空間制御装置『egg』が基準値の10倍以上の出力で稼働しています。担当者はただちに『egg』管制室に集まってください』
ふん、今さら来たところで遅いわ。誰にも止めさせはしない。
実験の前例のない高出力での『egg』の起動。それは仮想主を現実世界と完全に分離させることと同時に運が悪ければ死に至ることもある。だからって、今さら怖じ気づいたりしないけど。
着々と『egg』を起動させてゆく。そして『egg』にのりこんだ。
ヘルメットのような感覚制御装置を被り
固いシートに身を預ける。
ゆっくりと卵の上半分が閉じてゆく。そのタイミングで他の研究者たちが管制室に入ってきた。
「止めるんだ、──くん!この出力での稼働は君の体に影響が………!」
醜く肥えた開発部長が声を大にして叫ぶ。
「そんなことわかっているわ!だってこのシステムの9割は私が作ったのだから!──もっとも、あなたには止め方も分からないのでしょう?」
ぐぬぬ、と悔しそうに拳を握る豚は最高に滑稽で滑稽で………吐き気がする。
「止めて下さい、──さん。早まらないで!」
「そうですよ、もっといい方法がきっと………!」
他の研究者たちがおろおろとした声でいう。
「あら心配してくれるの?──もっとも、あなたたちが心配しているのは私じゃなくて自分達のことなのでしょうけど。私がいなくなったら誰があの豚の嫌がらせを受けるのかと怯えているのでしょう?」
その一言で全員が黙りこんだ。
ほらね、みんな自分勝手じゃない。
『egg』システムを考案したのも私。費用をかき集めたのも私。夜遅くまで残って豚がだした無理なスケジュールを一人でこなしたのも私。全部全部私、私なのに!
「全部全部私がやったの!私が創った私の『egg』。それなのになぜ学会では私の名前が消されたの?あんたの名前が一番上にあるの?なんでみんな知ってたのに教えてくれなかったの?──わかってるわよ。全部自分のため。かわいいかわいいあんたたち自身のため、でしょう?」
誰もかれも黙っている。目まで逸らして、馬鹿みたい。
「だから、最後くらい私のeggを私のために使ったっていいじゃない。誰にも止めさせない、止めさせるものですか!──開始時刻12月7日17時56分。セーフティロック解除。出力全開。使用者コード“26758”。仮想空間展開まで、3、2、1──Create!!」
『egg』の起動音が大きくなると共に私の意識もゆっくりと薄くなる。朦朧とした意識の中、遅れて管制室に入ってきた彼の声だけが私に届く。
「──さん、待って!行かないでよ!」
──ああ、君には最後くらい心の底から「ありがとう」を言いたかったな。
けれど、ごめんね。私はもう疲れたよ、自分のためだけに動く意思ある人と接するのは。
ああ、『egg』、私の『egg』よ。私の意思無き世界に誘ってちょうだい。