ながめがよいこのごろ10
そこは崖だった。ほぼ垂直の斜面のさきに広がる下界は雲のような白い何かに覆われていて見えなかった。ただ、落ちたら最後、ということだけはわかる。
からん、と音をたてて、斜面の一部が少しだけ崩れて転がっていった。
ロウは少しも恐怖を感じないのか、淵のギリギリまで進むと、その場に腰を下ろした。
「本当に素晴らしいわ!なんていい眺めなの。心が洗われてゆくようね」
いい眺め、というにはあまりにも白すぎると思うけど。
「あ、見て!鳥よ!何の鳥かしら?」
そう言ってロウが指差す先には何もない、ただの白い何かが広がっているだけだ。
ロウは僕が戸惑っているのに気がついたようだ。「どうかした?」と怪訝そうに聞いた。
「いや、僕にはロウの見えてるものが見えないようだ。何が見えているか教えてよ」
え?と言ってロウはもう一度下を覗いた。
そして何かに気がついたのか、一度顔を強ばらせ、その後ゆっくりと落ち着いていった。
「………そう、見えていないのね。あなたには何が見えるの?」
「白い雲のようなものが広がっているだけだ」
彼女は下界を眺めたまま、微笑んでいるようだった。けれど、どうしてだろう。その後ろ姿はあまりにも寂しそうだった。




