君色人生―続―
君色人生 ー続ー
彼が亡くなってから二年がたった。私は有名大学の文学部で文章の作法を学んでいる。彼ができなかったことを彼の意思を引き継ぐように毎日を過ごしていた。
なぜ、こんなに彼のために動いているのか自分自身でもわからなかった。毎日のように彼の墓石の前で彼につぶやいている。
「あの時、声をかけてくれたから私は今、こうして生きているんだよ。どうして逝ってしまったの? あの時、風のようにスッと私に声をかけてくれたのに。風のように去ってしまうなんて酷すぎるよ。私の感情までまるで台風のようにかき乱して結果的に私は一人だよ。ねぇ、答えてよ」
私は墓石の前でただただ沈み込んでうずくまってしまうだけだった。そんな私を見ていた女性が私の前にやってきた。
「また、来てくれたのね。毎日、大学も大変じゃないの? 無理してこなくても……」
「おばさん。こんにちは。彼は私にとってすごく大きな存在なので。離れることまだ受け入れられてないんです。だから、こうして毎日、彼と話をしようと。きっと彼は上から私に話しかけてくれてる気がして。あ、私もうバイトの時間です。また明日。彼にも伝えておいてください」
私は急いでバイト先の本屋さんに向かった。彼の好きだった本はおばさんから聞いていたので毎日、時間を見つけては読んでいた。
私が好きな彼の文体の元となった作品に私は彼の感想文の用紙を見ては、思い出していた。どうして逝ってしまったのだろうか。それだけがわからなかった。感想文と小説の作品の文体。
ひょっとすると、そこから何かつかめるのではないだろうか? そんな甘い考えで私は小説を読んでいた。
次の日、私は墓石に手を合わせて、いつも通りバイトへ向かおうとしていた。
「田辺さん!」
ふいに名前を呼ばれて振り向く。そこにはおばさんの姿があった。
「おばさん、どうしたんですか? そんなに急いで」
おばさんは見るからに苦しそうに息を切らしながら、私の元へやってきた。
「よかった、間に合って。あの子が残した文書が見つかったの。田辺さんにも読んでもらいたくて」
彼が残した遺書? それを聞いて私はバイト先にすぐさま電話をして、欠勤の連絡を入れて彼の家に向かった。
「僕の将来の夢は作家になること。いつか立派な作家さんになりたい。明日から転入生がやってくるみたい。きっと緊張しているだろうから、僕から声をかけよう。どんな人かな? 背は高いのかな? 出身はどこなんだろう? 色々聞いてみよう」
私はそこまで読んで涙があふれ出てくる。
「そんな質問されてないよぉ。聞きたかったらちゃんと聞いてよ」
彼の記したものには続きがあった。
「僕は転入生のために何もできなかった。何が作家の卵だ。一つもいい文章が書けなかった。いい人ぶってしまった自分に腹が立つよ。明日、僕は大好きな作家さんに一歩近づくために実行する。田辺さんと言ったかな? 明日から元気に学校にこれたらいいな。僕はその場にいないだろうけど」
そこで彼の文章は終わっていた。
私は気づいてしまった。彼の死の真実を。彼が好きだった文章を。
そして、私が彼に近づきたくて読んでいた作家が自殺の道を選んでこの世を去ってしまったことを。
それなら筋は通った。おばさんはまだこの理由に気づいていなかった。
「私だけが知っている理由。彼の死の真相」
次の日、おばさんは私の家族とともにとある場所に来ていた。そして、その場所に私は既にいない現実に私の家族と一緒に感じ取っていた。
そう、私は昨日、彼の後を追うように自ら命を落としたのだ。彼と彼の作家がたどった一途を私もまた歩んでしまった。私がここから去った真相は誰にもわからない。
彼と私の秘密の約束にしたかったから。彼の元へ行き、もう一度彼の顔を見たかった。
「来たんだね」
「来たよ」
「来て欲しくなかったけど……」
私は彼の表情を見て、プッと笑ってしまった。
「来て欲しかったって顔に書いてあるよ?」
「ウソ? 消して消して!」
彼の言動がとても面白くて、私を包んでくれた。こっちに来て正解だったかな。
「二人してなんでこんなに早く逝ってしまったの!」
「こんなバッドエンド誰も喜ばないのに!」
私の家族とおばさんが嘆いているのを私たち二人はただただ上から静かにみていることしかできなかった。
ー完ー