レモネード
-僕は死のうとしていた
親が離婚し、その時捨てられ、行く宛も無く、ただ絶望しか無かった。
数日間飲み食いも無く、このまま苦しんで死ぬのならいっそ今の内に死んでおこう。そう思っていた。
「君、何してるの。」
軽い声で聞こえて来た質問に驚き、思わず声のした方向に振り向いた。
「あぁ、ごめんごめん。夏に飛び込む人なら見た事あるけど、冬に飛び込もうとする人は初めてでさ。この辺深くて戻って来るの大変だよ?」
声の主はこの時期には合わない膝辺りまでしか裾の無いズボン、明るい黄色の布地のパーカーを来た少女だった。
その少女に僕は声を返した。
「戻って来ないから別に良いよ。」
つもりだった。
声になる筈だった想いは声帯を揺らさず、限界を迎えていた身体は眼下に広がる深い川とは逆の方向へ倒れた。
「ちょっと!?大丈夫!?」
薄れる意識の中で少女の声、周りに居た他の人々の声が響いていた。
意識が戻り、目が覚めた。目の前に広がる白い天井、視界の端にある緑色のカーテン、そして反対側の視界の端には、点滴があった。
「あ、意識、戻ったんだね。」
意識を失う前に聞いた声と同じ声だ。上半身を起こし、声のした方を見る。
あの時と同じ服装の少女がパイプ椅子に座ってこちらを見ていた。
「まだ無理しちゃ駄目だよ、君、暫く何も飲み食いしてなかったの?」
少し顎を引くように頷く。
「そっかぁ…あ、これいる?」
話を聞きながらぼーっと見つめていた少女が手に持っているそれを少女は差し出した。
「あ、ありがとう…」
渡された物が何か分からず少しの間持ったままそれを見つめていた。
「君、これ知らないの?」
またさっきと同じ様に頷く。
「これはね、ここをこうやって開けるんだよ。レモネードっていう飲み物だよ。」
少女に開けてもらったそれの中に入っている薄い黄色の、レモネードと教えて貰ったその飲み物を飲む。
「…おいしい…!」
「でしょ!私これすっごく好きなんだー!」
少女の顔がさっきまでより一層明るくなった。
「あ、そうだ!私、礼門 光って言うの。ひかりって覚えてね!それとそのレモネード、またいつでもいいからいつか返してね!」
「よ、よろしく…」
「君は名前なんていうの?教えて!」
「…越壁 陽翔。」
-それから12年、光の親はとても優しい人で、家に住まわせて貰い、学校にも行かせて貰った。絶望しか無かったあの日に助けて貰い、高校を卒業し、とある会社に入社し、俺は今日、給料日である。
「こんな所にわざわざ呼び出して、どうしたの?」
あの時と変わらない声だ。
「光姉ちゃん、いや、光。俺と結婚してください。」
片膝をつき、片方の手に指輪の入った小さな箱、もう片方の手にはレモネードを、持っていた。
「えっ…!?こ、こちらこそお願いします!」
涙を溢れさせながら答える彼女は今までのどんな時よりも綺麗な笑顔だった。
「あの時の約束、覚えてくれてたんだね…!」
「この時が一番かと思って。」
「うん…ありがとう…!」
本来は12時頃投稿の予定だったのですが寝落ちしてしまい…
少し投稿が遅れましたが初の短編小説、構成がぐちゃぐちゃかも知れませんが
読んで頂き本当にありがとうございます!
これからも頑張りますので連載小説のオワリノホン、ソーシャルネットも読んで頂けると幸いです!