想定外の連続、ですか?
俺はメリアとネルシアの婆さんの見送りに校門へ来たはずだ。
――そのはずだ。
「帰りたくなーい! まだイヴァンと一緒にいたい!」
「遊び足りないガキみたいなことを言うんじゃないよ!」
校門の柱にしがみつく二十代とそれを引きはがそうとする六十代。
――俺は何を見せられてるんだ。それにアイツらはアイツらで何やってるんだ。
あまり離れてないところにある木の裏に俺が担当している生徒四人組が張り付いている。
寮を出たところ追いかけられ、時間が経つにつれて一人また一人と増えていった。
普通に廊下を歩いてるだけでもメリアに惹かれたのであろう男たちの視線が鬱陶しかった。途中から四人を奇異に見る目が加わって鬱陶しさが倍化されていた。
「あ、ネルシアさん魔法は反則じゃないかな!?」
痺れを切らしたネルシアの婆さんは魔法でメリアを宙に浮かせる。
荷物も浮かしているのでこのまま下山するのだろう。
「婆さん街まで結構距離があるのに大丈夫かよ」
長時間魔法使いながら動くのは現役の魔法師でも辛いと聞く。
笑って振り向くネルシアの婆さん。
心配はいらないようだ。
「平気だよ。たまには体を動かさないといけないさね。そっちも体調には気をつけな」
「あー……。おう」
白竜のせいだとも言えない俺は詰まりながらも返事をする。
「あと魔法師試験の日はアタイも顔出すからちゃんと成果見せな」
ネルシアの婆さんは頭が痛くなることを言い残してメリアと街へと歩いていく。
俺はその場でしゃがみ込む。
――マジかよ。
試験当日、下手なことしたら後々ネルシアの婆さんにずっとイジるネタにされる。
給料も減るだろう。研究に必要な経費だって下ろしてくれなくなる可能性も十分にある。
――最悪クビとかはねぇよなぁ……。
ネルシアの婆さんからみたら俺は孫弟子にあたる。しかし関係性は仕事上では意味を成さない。
締めるところはきっちり締めるのが婆さんだ。
ゼロとは言えない。
――待て、もっと問題があるじゃないか。
ガリオンのことだ。
また今回も法団の馬鹿たちが勝手に不正しかねない。
――不正のことを知らない婆さんは一体どう思う?
ネルシアの婆さんは俺の知る中でもトップクラスの魔法師だ。魔素や魔力の感知はもちろんできる。
合格する能力のない人間はあっという間に見抜かれる。
――能力が一定を超えていることを認知してもらわなければ、結果的に俺の生徒も不正合格させられるのでは?
本格的に頭が痛くなってきた。
ネルシアの婆さんを納得させるレベルに生徒たちの魔法の質を上げないといけない。一か月ちょっとの短期間というハードな条件付きで、だ。
乾いた笑いが込み上げてくる。
「最悪の歯車が噛み合った気がするぞ……」
生徒たちを真っ当に合格させるつもりだ。ガリオンにもケンカを売ったから決定事項だった。
明らかに越えなくてもいい壁が追加されてしまった。
ガリオンの壁よりも遥かに高い壁が――。
「お前たち、まだ木の裏にいるんだろう」
木の裏に気配がまだあったので声をかけると木の幹が大きく揺れた。
「あわわっ」
「ユン、暴れないで」
「おい、こら押すなって!」
「さ、支えられませんよ!?」
四人が重なるように倒れる。
「ちょっと事情が変わった。明日から教えるときの本気度をもう一段階上げる。一応、手加減はするつもりだ」
「それは尾行していた罰でしょうか……?」
一番下で潰れているリオンが怯えた目をしていた。
「俺はガリオンじゃない。そんな無駄なことはしない。ただ――」
発そうとした言葉を俺は飲み込む。
生徒たちに不正合格の話をしていいものではないだろう。
特に血のつながりのあるダリウスにはしてはいけない。
「――俺の私情だ。準備が整ったら山奥へキャンプに行く。そこで二週間の間、毎日魔法漬けだ」
「お風呂はどうするんですー?」
ユンが最初に立ち上がった。
「水浴びぐらいはできるさ」
「そんなー!?」
「ご飯は、どうするの?」
悲痛の叫びをあげるユンを他所にロシェトナが訊いてきた。
「俺が用意するか、自分で作ってもらうことになるな」
キャンプの方は『どんな環境でも過ごせるようになってもらう』という目的がある。
晩飯だけでも自分で食材の調達から調理をしてもらう予定だ。
「料理は、できないよ?」
「この際覚えとけ。そっちも教えるから」
「図書室に、料理の本あるかな?」
「それは知らん」
俺がキッパリ言うと、ロシェトナは図書室の方角を見上げた。
「図書室へ今から行くなよ。もうすぐ休み時間終わるからな」
ダリウスが俺を睨みつけてくる。
「言いたいことがあるなら言えよ。俺は推測しかできないぞ」
「……さっきのもしかして竜の専門家のマイアットさんだよな?」
「そうだが」
「なんで魔法の研究者と竜の研究者が一緒にいるんだよ!」
「言ってなかったか。アレ、俺の上司」
俺は誰もいない校門を指さして答える。
「説明になってねぇーぞ」
「ラナティスは、他の研究組織とは違うごちゃまぜ集団だから」
「なんでリッターが答えるんだよ」
「先生のことを、さっきまで調べてたから」
「俺のことなんて調べて何になる」
俺が頭を掻きながら尋ねると、ロシェトナの視線が逸れた。
「わたしの夢の先に、せんせいがいる気がするから」
「どんな夢だ」
気になって質問すると、ロシェトナは眼帯を押さえた。
「精霊は実在するのか、私は知りたい」
想定外の発言に俺を含めた全員が目を丸くした。
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