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半竜の研究者は世界の秘密が知りたい  作者: 紺ノ
竜と魔導と教師のお仕事?
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久々の面会、ですか?

 ―― ◆ ―― ◆ ――


「練習場が使えなくなっただと?」


 学生寮で山盛りのピラフを頬張る俺にヤシュヤが顔を歪めていた。


「今朝、鍵を借りに行ったら『魔法の教師でもない者が魔法の練習場を自由にできるのが間違ってる』とか言われたッス。鍵の保管場所も移動しててわからないんスよ」


 俺が白竜(ホロン)と会っている間にくだらない妨害をしてきていたらしい。


「ったく、ホーランドってのはろくでもないな」


 スプーンを咥えたまま俺は椅子に(もた)れ掛かる。

 

「校長のオッサンにどうにかしてもらうか」

「話に行こうと思ったんスけど校長先生は面会中なんスよ」

「なら後で話しにいくか。俺も話したいことあるしな」


 俺は残りのピラフを口の中に放り込んでいく。

 寮の飯は美味い。魔法師を目指す人材を育成する場所には不釣り合いなぐらい美味い。


 下っ端魔法師の生活であれば、任務次第ではどこで寝るかもわからない。まともな食事がとれるかわからない。

 法団の命令があれば何処へでも向かうのが下っ端だ。出先の下調べはもちろん準備もすべて自前でやる。

 

 誰もそのことを教えない。

 おそらく生徒たちもある程度歴のある魔法師の仕事姿しか知らない。

 

 いくらやっても不安になる準備。荷物が多くなると今度は身動きが取れなくなるから持ち物は最低限に絞らないといけない苦悩。いつ起こるか分からない魔物や魔獣との戦闘。

 山籠もりを繰り返している俺みたいな奴は慣れているから大丈夫だが普通は無理だろう。

『楽で金の稼げる魔法師の仕事』というのは下っ端を抜けた先にあるご褒美だ。


 だから常々思う。


 ――魔法師になった先を知っていれば知っているほど学園の暮らしが天国に思える。


 生徒たちには多少『不自由な生活』に慣れさせた方がいい。

 練習場で予行演習ぐらいはしたかったところではある。


「ところで研究者って全員白衣を着てるものなんスか?」

「ラナティスのあるサルベアの研究者たちは大体着てる」


 街の半分がラナティス関係者みたいなものだ。俺の行動範囲では白衣を着ていないのはお店の店員か親子連れぐらいだ。


「校長先生と面会してる人たちも白衣着てたんスよ。背が小さくて可愛らしい女の子としっかりしてそうなお婆さんの二人組で」


 俺の頭によく知る二人が浮かび上がった。


「……まさかな」

「そうそうルーカスさんの白衣にもあるそのバッジ着けてたッス」


 ヤシュヤが指さしたのはルーペ形をした銀バッジ。

 ラナティスの正式な研究員である証だ。


 頭の中が一瞬真っ白になる俺。

 残っていたピラフを平らげてスプーンをトレイに叩きつける。


「ルーカスさん?」

「悪い。この皿返却口に返しといてくれ」

「え? え??」


 俺は皿とヤシュヤを置いて校長室へ駆け出した。

 道中生徒たちに不思議そうな顔をされたりぶつかりそうになったがお構いなし。


 校長室に着いてすぐドアを開けた。

 勢いよく開いたドアが大きな音を鳴らす。


 向かい合って校長のオッサンとネルシアの婆さんがソファーに座っていた。婆さんの横で座っているメリアが目を丸くして俺を見ていた。


「なんでネルシアの婆さんとメリアが――っ!?」


 俺の言葉を遮ったのはメリアのタックルだった。


「イヴァンが元気そうでよかった! よかったよぉ……!」


 ――なぜメリアは泣いている? 何に安心している?


「こっちがなんでだよ。孫弟子が意識不明だって聞いて来てみりゃピンピンしてるじゃないかい!」

「三日ほど意識なかったんですけどね。朝方に戻ったらしいですよ」

「丁度アタイたちがこっちに着いた頃かい。まったく、人騒がせな孫弟子だね」


 ふんぞり返るネルシアの婆さんが俺のことをゴミを見るような視線を送ってくる。

 メリアは俺の白衣を握りしめて、足を腰に巻き付けている。


「おいメリア、俺の服で涙を拭くな!」

「ふーんだ。知らない」


 獣の赤ん坊よろしく引っ付いたままメリアは剥がれない。

 ネルシアの婆さんに話を振った方が良さそうだ。


 話の流れ的に俺が三日間寝ていたから駆けつけてくれたようだ。


「体調管理も出来ないのかい?」


 すべての元凶は白竜(ホロン)だ。しかしそれを言ったらどうなるだろうか。

 

 根掘り葉掘り聞かれるに決まってる。下手に話せば俺が世界の秘密について調べてることもバレる。

 ラナティスにおいての禁足事項の一つだ。


 生半可な罰では済まないないだろう。


「慣れない環境の疲れが出たんだろうな」


 嘘を付くしかない。


「エルのしごきに耐えたヤツが何言ってるんだい」

「師匠のアレは肉体的疲労が多くてでこっちは精神的疲労が多いんだよ。気が付いてなかったが疲れが溜まったんだ」


 俺の言い分を疑り深いネルシアの婆さんは腕を組んで吟味していた。

 数秒の沈黙の後、俺の頭を引っぱたいた。


「……言いたいことは山ほどあるが今はこれで許しといてやるよ。ラナティスに戻ったら覚悟しな」

「へいへい」


 校長のオッサンが口元を抑えて笑っていた。

 俺よりも先に、そして不機嫌そうに言葉を発したのはネルシアの婆さんだった。


「何がおかしいんだい、ハルトマン」

「昔を思い出していたんですよ。エルシーの手綱を握って平気だったのはあなたぐらいでしたから」

「アレを自由にさせるのは街壊滅規模の魔法災害より怖いことさね。手綱握って当然さ」


 ――師匠、やっぱあんた魔王だわ。ネルシアの婆さんにここまで言わせるんだから。


「孫弟子はまだ扱いやすいね。最近は何かコソコソとやってるみたいだけど」


 俺の身体に張り付いているメリアが大きくびくついた。口パクで俺に『ごまかして』と無茶ぶりをしてくる。


「何のことだかな」

「仕事もない孫弟子が急に資料庫に入り浸るようになったからね。あのオリフィスの事件から特に」


 時期まで把握済み。入室記録や資料の貸し出し記録でも見たのだろう。


「世界の秘密に手を出していないだろうね?」

「俺に無職の野良研究員に戻る覚悟があるはずないだろう」

「その言葉をアタイは信じたいね」


 ネルシアの婆さんは俺から疑りの視線を外した。

 これ以上の言及は避けられたらしい。


「孫弟子も大丈夫そうだし、帰りの魔法列車の時間まではゆっくりするかね」

「では飲み物を用意しましょうか。久々に会ったのですから積もる話もあるでしょう」


 校長のオッサンは白いカップを奥の棚から取り出した。


「そうだね。たまにはいいかもしれないさね。コーヒーはあるかい?」


 ――今なら練習場の話を切り出せるかもな。

 

「校長のオッサン、ちょっと話があるんだが」

「ホーランド先生の件ですね」

「知ってるのかよ」

「直談判に来たので。っとと」


 お湯を沸かす魔導ポットに水を入れる校長のオッサン。


「私にはどうにも出来ません。私一人が反対しても他の先生が全員賛成してしまいましたから」


 ――数と権力の暴力となるとどうしようもないか。


「ならそっちはいい。山で授業したいんだけどテントとかないか」

「野外演習用のものがありますよ」

「二週間ほど借りたい」

「ガリオン先生が来てから使われなくなって倉庫に眠っているものです。いくらでも使ってください。しかし、二週間とはまた長いですね」


 コトコトとお湯が沸いたことを魔導ポットが鳴らして伝える。

 手慣れた様子で校長のオッサンはコーヒーを入れていく。


「不自由な生活を味わってもらわないといけないんだ。――この学園は居心地が良すぎる」


 カップと皿がぶつかる音がする。

 コーヒーを入れる校長のオッサンの動きがぎこちなくなった気がした。

 

「わかりました。こちらで色々手配しましょう」

「助かる。三日遅れた分以上の仕事してやるよ」

「それは頼もしい」


 俺の身体にしがみついていたメリアがズルズルと落ちていく。

 身体を支えるだけの力が無くなったらしく、今度は右足に絡みついていた。


 ――白竜(ホロン)の話はメリアにしとくか。


「ネルシアの婆さん、メリア借りていくぞ」

「三時には帰るからそれまで好きにしな」


 俺はメリア付きの右足を引きずって校長室を出る。


「おい、いい加減放せよ」


 校長室の外には生徒も教師もいる。

 足に女を付けて歩くと白い眼で見られる。


「やだ。久々にチャージ中」


 ――何の?


「自室じゃないと話せないことだからすぐに移動したいんだ」

「話?」

「お前の大好きな竜の話だ。それも白竜(ホロン)の」


 メリアはすぐに手を放し、地面をコロコロ転がりながら器用に立ち上がる。


「どこに行けばその話は聞けるのかな! かなぁっ!」

「相変わらず泣いたり、わがまま言ったり、元気になったり忙しい奴だな……」

「何に笑ってるのかな?」

(やかま)しい」


 俺は頭を掻きながらメリアを先導するのだった。


次回は2/9更新予定。もしかしたら11になるかも

→インフルのため更新延期

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