消えない炎の消し方ですか?
―― ◆ ―― ◆ ――
「――これで、火は消えるよ」
俺が紙に書いた魔法陣をロシェトナは破り捨てる。
四つあった消えないはずの魔法の火は残り三つになった。
ロシェトナは俺をじっと見てくる。顔つきは変わってないが「どうだ」という空気だけはわかる。
俺はロシェトナの眼帯を注視する。
昨日まで茶色の革製だった眼帯が黒の薄い布製になっている。
――生地が薄ければ眼帯越しでも精霊眼で魔法に関する事象が読み取れるのか。
「はぁッ!?」
「なんでー?」
ダリウスとユンが驚く中、リオンが顎に手を当てて考え込んでいた。
火が消えた理由をすぐに解説しようと思っていたが俺は止めた。
――何故消えたのかを逆算で考えてるんだろうな。いいことだ。
リオンが何かわかったのか、顔が上を向く。
「消えない火は魔法で創ったものだから、魔法が発生できないようにすれば火は消えるってことですか……?」
「合ってるぞ。自信なさげに言うなよ」
俺は生徒四人の前に立つ。
「ロシェトナみたいに魔法陣を壊してもいいし、魔法陣が読めるなら完全に反作用する魔法で打ち消すこともできる。やり方なんていくらでもある」
「なんでこれが頭の体操なんですかー?」
「火を消せと言われて素直に火を消しても無駄だっただろう。頭を柔らかくしないといけないんだよ」
――自力で消せるかどうか、消し方次第で魔法理論をどこまで理解しているかも把握できるから一石二鳥なんだ。
「てか授業始まってすぐに火を消すことはないだろ、ロシェトナ」
俺の鞄から魔法陣の紙を盗もうとしたときは焦った。
「火を消さないと、次に進まない」
「進めていいんだな」
「いいよ、なんで確認?」
「クイラ式魔法検査をするから」
固まるロシェトナ。
他の生徒とヤシュヤはピンときていないようだ。
「ロシェトナがこの前の魔法理論のテストで答えたものだ。意味は、わかるよな」
「魔法構成の、基礎能力検査」
魔法構成の『魔素の分解・魔力の操作・魔法の発生』の何が出来て何が出来ていないかを知るには一番いい検査方法だ。
ロシェトナと二人で話したときに妙に食いついてきた部分だ。
「やりたくないなら帰ってもいいぞ。どうする」
――魔素の分解と魔法の発生が人並み以下という事実が知られれば『天才』とは呼ばれなくなる。
「横で、見てる……」
ロシェトナは狭い歩幅で練習場の隅へ行く。
俺には『天才』がどういう意味を持つのか知らない。しかし昨日の様子から察するに必要なことなのだろう。
「よし、じゃあやるぞ。魔石を出して俺の言うとおりにしてくれ」
「「はい」」
ダリウスだけ返事がない。
魔石を大人しく出しているあたり検査はちゃんとやるらしい。
――不満そうな顔は隠す気がないようだが。
「最初は三十分、魔素の分解をするか」
「え、普通五分とかじゃ」
「始め!」
リオンの言葉を無視して俺は開始を宣言した。
―― ◆ ―― ◆ ――
「終了だ」
俺の前で魔素を分解し続けた三人は息を切らして倒れこんだ。
三十分間の魔素分解は三十分間全力で走り続けるのと同じようなものだ。
慣れていないとすぐに体力切れになる。
分解が終わった後は自分が作った魔力を暴発させないように操作。最後に各自好きな魔法を使う。
検査器具不要の検査方法にして、魔素や魔力の感知能力者しか判別できない検査方法――それがクイラ式検査方法だ。
「キッツ……なんだこれ」
「もう無理ですー……」
「これなら、ヤシュヤ先生の授業の方が楽ですよ……」
「一流の魔法師は二時間分解し続けても平気だぞ」
紙とペンで三人の検査時の状態をまとめる。
「マジもんの化け物じゃねーか」
「初めてで三十分できるだけ上出来だ」
検査をしてわかったことが三つある。
魔素の分解能力だけ三人とも高いこと。操作がまともにできていないから魔力がほとんど霧散してること。魔法は魔力を流し込めるだけ流し込んで無理やり発生させる力技だったこと。
「非効率極まりないな」
「誰も、手順を教えないから」
静かに這い寄ってきていたロシェトナに驚かされる。
ペンを落としかけた。
「せんせい、検査に使った紙見たい」
「お前は見えてるだろうが」
「見たい、見せて」
「後で返せよ」
ロシェトナは見たことない素早さで紙を持っていくとまた練習場の隅に戻る。
――何がしたいんだ、あいつは。
「先生ー、検査結果はー?」
ユンがスライムのように地面に張り付いていた。
「午後の授業終わったあと教えてやるよ」
「午後?」
午前の授業が終わるチャイムが鳴った。
「午後はそうだな。かくれんぼでもするか」
「「「「「は?」」」」」
練習場にいる俺以外が変な声を出した。
CODやってて更新忘れてた。
次回は11/10に更新予定。
来月はポケモン剣盾発売されるから11月の更新はそこだけになるかも。