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半竜の研究者は世界の秘密が知りたい  作者: 紺ノ
竜と盗人とはじまりのお話
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記録石と裏背景

 俺は自分がした魔法の説明を思い返した。

 間違ったことは言ってないか、分かりづらくはないか、などの確認のためだ。

 そこでふと気づく。


 『竜化』が魔法じゃないと見抜かれるのではないか、と。


 魔石も魔法陣も俺は使用していないし、その辺りの痕跡もない。

 しかし、俺の足は『竜化』させていた。

 まずい。指摘された時用に嘘を考えなければならない。

 マイロが俺の魔導で悩んでいる今しかない。


「マイロくん、報告に戻った方がいいんじゃないかな?」


 メリアが研究室にある柱時計を指差す。

 あと数分で午後三時になろうとしていた。

 それを見たマイロが慌てて立ち上がる。


「とりあえず、聞くこと聞いたからオレは報告に戻るわ。じゃあまた」


 メリアの研究室から走り去るマイロに俺は軽く手を振った。

 俺は内心、安堵する。しかし、マイロは何か予定があったのだろうか。

 かなり必死に見えた。


「メリア、マイロは何に必死になっていたんだ」


 俺の問いにメリアからの返答がない。

 メリアがいた椅子を見たが、影も形もなかった。

 俺は視線を右から左、そして、下から上と動かす。

 しかし、本やテーブル、他には研究資料と思われる竜の牙などはあれど、メリアはいない。

 マイロが出て行ってから、この研究室を出たのは誰もいないはずなのにだ。


「……どこいった」


 溜め息を一つ、俺は思わず吐いた。

 すると、ガコンとメリアの机から音がした。


「い、いたぁい」


 机の下からメリアが四つ這いで出てきた。

 涙目で頭を押さえてる様子を見ると、頭を机で打ったらしい。

 

「何やってるんだ」

「これを取ってたの」


 人を殴り殺せそうな分厚い本をメリアは持っていた。

 

「と、その前に。はい、これ」


 茶色の紙袋を俺の胸に押し付けてきた。

 胸にゴツゴツとした堅いものが当たる。

 これはマイロがメリアに頼まれて買ってきたものだったはずだ。


「素足で帰るのはさすがに見てられないからね」


 メリアに言われて思い出す。

 そういえば、オリフィス(偽)を追いかけるときに『竜化』して、靴を破いたのだった。

 俺の両足は、研究室の床に直接触れていた。

 足を『竜化』させた結果、今のように素足になってしまうことはよくあることなので、気にしていなかった。

 袋の中を覗くと革で作られた茶色のブーツが入っていた。

 俺がいつも履いているブーツと同じものじゃないか。

 

「ありがとう。助かる」

「いいのよ。次、本題ね」


 そういって先ほどの分厚い本を俺に手渡してくる。

 しかし、重さは不自然なぐらい軽い。

 何の本かと表紙を見ようと動かすと、本の重心が中心から少しずれた。


 なんだこれは。


「その本、開けてみて」


 メリアに言われて、俺は本を開けた。

 そこには、文字も絵も何もない。

 代わりに、四角い(くぼ)みがあり、その中に透き通った青色の丸石が納められていた。

 大きさは握り拳ぐらい。表面が丁寧に研磨されており、綺麗な球体をしている。

 その中心には魔法陣が刻まれていた。

 この本はどうも、この石を隠す箱だったらしい。


 ――いや、それよりもだ。

 

 俺は急いで本を閉じる。

 俺が見た石は魔石だ。

 ただ、普通の魔石とは話が違う。

 魔石を媒体にした記録物――記録石(スフィア)だ。


「メリア、なんでこんな物がここにある」


 何かの間違いだ。そうであってくれ。

 もしこれが本物なら、とんでもないことだ。


「それが今回の依頼で言ってた文献だよ」

 

 メリアは笑顔だった。

 俺は耳を疑う。


 記録石(スフィア)は情報を魔法陣に変換して、魔石に書き込むことで作成される。

 この製法は現代では失われてしまっている。

 また、書き込まれた情報は魔石が壊れるまで保持し続けるようになっているため、記録石(スフィア)は最重要文献として、厳重にラナティスのような組織が国から依頼を受けて、保管・管理される。


 現存している記録石(スフィア)は、全部で九個。

 本の中にあるのはメリアが同行した調査で発掘されたもので、おそらく十個目となる記録石(スフィア)

 

 本当にとんでもないものを持ってきたものだ。

 俺は苦悶で歪みそうになる表情を抑え込む。 


記録石(スフィア)の調査も含んでいるなんて聞いてないぞ」

「だって言ってないもん。言ったら引き受けてくれそうにないし」


 メリアからの依頼を思い出してみると、文献とは言っていたが、どんな物かは言っていなかった。

 やられた。

 文献とは何かを確認せずに俺は依頼を受けてしまった。

 俺の確認不足に頭を抱える。

 あの時はオリフィスがくるかも、という言葉に思わず受諾したんだった。

 あいつがこのことを知れば絶対に来るだろう。

 確信できる。


 しかし、だ。


「今から断ることは……」

「駄目だよ! 絶対に! だって、イヴァンはお金受け取ったもんね。靴受け取ったもんね!!」


 腕を交差させて×(バツ)マークを作るメリア。

 金と靴はそういう意味か。


「全部返すから、依頼拒否だ!」

「ダーメっ! 拒否されたら困るもん」


 困る、と言ったメリアに疑問を持つ。

 依頼拒否したところで俺以外のやつが調査すればいいだけの話だ。

 そうすれば、メリアの欲しい『魔素に関わる文献の真偽』は分かるはず。

 俺でなくはならない理由はないはずだ。


「何故、メリアが困るんだ」

「え、あ! しまったっ」

 

 裏がまだあるな。


「きっちり話せ。じゃないと、この記録石(スフィア)は今すぐ地下の保管室行きだ」


 そもそも、メリアの研究室に記録石(スフィア)がある時点でおかしいのだ。

 本に見せかけた箱に隠していたことも怪しすぎる。

 俺の言葉に屈したのか、あたふたしながら早口でメリアは説明を始めた。


「いや、その、えーっと。それを発掘したときに記録石(スフィア)の調査結果がすぐ知りたいという話になりまして」

「ほう」

「ポロッと、魔石とかだったら私の部下に詳しいのいるよ、と口から出てしまって」

「ほうほう」

「周りの研究者たちがだったらその人にお願いしようとか、言い出したの」

「ほうほうほう」


 なんとなくだが、経緯は理解した。


 しかしメリアも研究者である以上、魔石がどうだとかは分からなくても、記録石(スフィア)の重要性は理解しているはずだ。

 そんな人間が調査依頼を受け入れるとは思えない。


「その調査報酬に竜関連の発掘物を私が発掘したことにして、ラナティスで研究していいと言われて」

「それで依頼受けたのか!? ふざけんじゃねぇ!!」

 

 俺は声を荒立てて叫ぶ。


 メリアの扱いに長けている奴が混じっていたのか。

 この条件、メリアなら絶対に引き受ける条件だ。

 目を輝かせて、なんの考えもなく承諾している姿が目に浮かぶ。


 依頼の承諾に関しては、俺も人のことはあまり言えない。

 目的のために、重要なことの確認をすっ飛ばしていたんだから、言ってはいけない。

 もう遅いだろうが、発掘物の登録について確認しておこう。


 まだ未登録ならなんとかできるかもしれない。


「発掘物の登録は、もう終わってるんだよな……」


 メリアが黒い笑みを浮かべて、親指を立てた。

 登録してしまったらしい。

 もう書類とかも全部申請通ってしまって、後戻りできないんだろうな。


記録石(スフィア)は登録してるのか」


 メリアは首を横に振った。

 発掘物の横領 + 無断研究か。

 俺の人生終わったかもな。


 退路のない現実に俺はその場で(うずくま)るのだった。

次回から記録石(スフィア)の調査を書いていきます。

早ければ10/9に更新します。←私用で更新できそうにないので、いつも通り土曜日ぐらいに更新します。すみません。


あと、改稿はまだすると思います。

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