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半竜の研究者は世界の秘密が知りたい  作者: 紺ノ
竜と魔導と教師のお仕事?
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初日はどうですか?

 午後の授業を終えた俺は寮の自室に戻ってベッドに倒れこんだ。


「疲れた。なんだこれ」


 長時間誰かにモノを教えるというのは精神的疲労が溜まりやすいらしい。 

 身体は動くと言っているが心が拒絶する。


 ――研究する時間あってもやる気がでない……。


 午後の授業で炎を消せた生徒はいない。

 目の前で大ヒントを出したのに気づいてないということは魔法の基本を理屈で理解していないのだろう。


「黒竜くんお疲れだね」


 写本が呑気に話しかけてきた。


「お前は俺の中にいるだけだから元気そうだな」

「元気ではあるけど退屈だね。お喋り相手のキミは人前にいるから話しかけれないもの」


 確かに一度も話しかけられていない。


「好き勝手に話しかけてくると思ってたんだが」

「見えない何かとお喋りする変人さんになりたいのかい?」


 本と会話している方がよっぽど変だが、何もないところで語りかけていることもかなり変だった。


 人間以外に気を遣われるというのは違和感しかない。


「そういうところ人間臭いぞ」

「思考や判断のベースは人間だよ、サルミアートの写しなんだから」


 それもそうか、と納得する。


「正直、あの精霊眼の女の子を見たときはびっくりして声を出しそうになってたけど」

「お前でも驚くのか」


 ベッドの上で仰向けにになって、天井をぼーっと眺める。


「精霊眼なんて生きてるときに一度も見たことがないよ。おとぎ話の代物さ」

「喋る本のお前が言うと説得力が違うな」

「そんなに説得力あった?」

 

 ――無さ過ぎるんだっての。


 上半身をベッドから起こす。

 明日やる授業の内容を考えてから寝ないと明日も思いつきで授業を進めることになる。

 教科書がアテにならない以上、自分で考えないといけない。


 何よりも明日はロシェトナが俺の授業に参加するらしい。

 精霊眼を俺に見せた後「明日は、授業出るから」と言い残して消えた。

 追いかけようかとも思った。追いかけまわした結果、授業に出てこなくなる方が困ると思ってやめた。


「ロシェトナのやつにも効果的かつ他の生徒にも効果的な魔法の授業を考えないとな。この二つは方向性が違うから難しいところだ」


 精霊眼持ちで知識もあるが、必要な技量と才能が伴っていないロシェトナ。

 知識と技量がないため、才能に頼りっきりの他の三名。


「――どっか似てるんだよな、昔の俺とアイツの関係に」


 魔法の知識はあっても魔法がロクに使えなかった昔の自分と才能のままに魔法を発動させて制御を失うオリフィス。

 師匠がいなかったら俺は魔法が使えないままだった。オリフィスも自分の魔法に振り回され続けていたはずだ。


 指導方法はふざけた遊びか拷問に近い山籠もりのどちらかだった。割合で言うと

 2:8で山籠もり。


 ――よく生き残れたよな。食料なしで山の中を一か月とか普通だったし、寝てる間に魔獣の群れの前に放り出されたこともあったのに……。


「なんで顔色悪くなってるんだい?」

「生と死の狭間を彷徨う教育法を少し思い出していた」

「キミの過去を見たことあるから分かるけど、普通は死ぬからね?」

「わかってる。だから他の方法を探すんだよ」


―― ◆ ―― ◆ ――


 寮の部屋にユンが戻ると、ルームメイトのロシェトナが待ってましたと言わんばかりに手を出した。


「イヴァン先生の、授業でノート取った?」


 ロシェトナが授業のノートを見せてと言ってくるのは決まって筆記テストの一週間前だ。

 ユンは一週間後にテストがあったか思い返すが、聞いたことがなかった。


「取ったけどーどうしたの?」

「すごく、見たい」


 ユンは特に断ることもなかったので鞄からノートを出して渡す。

 ロシェトナは今日の授業で取ったページをすぐに開けた。


「年表、詳しいし分かりやすい」

「そうなんだよー。すっごくわかりやすく教えてくれたよ。あとね、書くの遅れたら待ってくれたよ」

「ホーランドが、おかしいだけ」

「外ではホーランド先生って呼ぼうね……」

「先生と、認めた覚えがない」


 忠告を切り捨てるロシェトナにユンは苦笑いをした。


 乱雑に本が置かれている部屋の左半分がロシェトナのエリア。クマのぬいぐるみやブローチが飾られている右半分がユンのエリア。

 一緒の部屋になったときにそう決めたが二人は専ら中央の境界線でお話する。


 珍しく、先に境界線を陣取ったのはロシェトナだった。


「授業、面白い?」

「面白かったよ! 特に午後は先生が『消えない火』を出したの!」

「すごく簡単に、消えるよ?」

「うそだぁー。だって誰も消せなかったんだよ?」


 ロシェトナは魔法の知識をたくさん持っている。

 ユンが知らないだけで消す方法はいくつかあった。


「明日は、授業出るから消すところ見せる」

「え? ロシェちゃん出るの?」


 テスト以外で教室に顔を出すのは稀だ。今朝、教室に一緒に行くと言った時もユンはびっくりした。


「うん、楽しみ」

「え、あ、そうなんだねー」


 眼帯を外して笑うロシェトナにユンは言葉が詰まる。

 ユンが眼帯を外すロシェトナを見たのは実に一年ぶりだった。


10/27に更新出来たらいいなって

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